ふだんNHKの歴史教養番組などで、ご高説を拝聴する機会も多い脳科学者の中野信子さんの新著が『不倫』(文春新書)だ。帯には妖艶そうな中野さんのお写真が。テレビでの才媛ぶりとのギャップにひかれ、本書を手にした。
なぜ不倫はなくならないのか。それは不倫をつかさどる遺伝子と脳内物質のせいである、といきなり不倫経験者を喜ばせるような文言が並ぶ。「不倫するのは自分が悪いんじゃない、遺伝子のせいなんだ」と安心するかもしれない。
どれくらいの人が不倫しているのだろうか。比較的信頼できそうなデータがある。日本老年行動科学会が2011年1月から12年12月にかけて関東圏在住の40歳から79歳までの男女(有配偶者の回答者は男性404人、女性459人)を対象に行った調査結果を紹介している。「配偶者以外の異性と親密な付き合いがある」と答えたのは、男性では40代38%、50代32%、60代29%、70代32%、女性では40代15%、50代16%、60代15%、70代5%となっている。予想以上に高い数字だ。中野さんは「日本はおそらく世界の中では不倫率が高い部類の国だろうことが予想できます」としている。
次に、最新の研究で、ある特定の遺伝子の特殊な変異体を持つ人は、持たない人に比べて、不倫率や離婚率、未婚率が高いことを紹介している。2015年にオーストラリアの研究者が発表した論文によると、過去1年以内に特定のパートナー以外の相手とセックスした人は男性で9.8%、女性で6.4%いて、それらの人の遺伝子を調べると、とくに女性にある特定の遺伝子を持つ割合が母集団より多かったという。
さらに脳の神経伝達物質ドーパミンへの感受性と浮気率の不思議な関係なども紹介し、生まれつき「一夫一婦制の結婚には向かない人」がいるのは厳然たる科学的事実だ、と指摘する。
本書がユニークなのは、最近日本で見られる不倫バッシングについて分析していることだ。なぜ猛烈な社会的排除の対象になるのか。中野さんは「不倫をする人間は社会集団の中での『フリーライダー』(コストを払わずにタダ乗りする人)とみなされることが多いから」と説明する。
普通の人は子育てや家庭を維持するコストを払った上で、恋愛、セックスをしている。不倫はそれらのコストを負担せずに性的快楽を享受しているというのだ。「それはズルい」という妬みがバッシングの背景にあるとみる。
不倫も永遠になくならないし、不倫バッシングがおさまることもないだろう。少子化対策が叫ばれる日本はどうしたらいいのか。中絶大国ニッポンと婚外子を認めて人口増に成功したフランスをひきくらべて、多様なパートナーシップを許容するよう、中野さんは訴える。
それにしても本書が紹介している不倫率で、日本は欧米よりもヒト桁高いことに驚いた。著者は「不思議」としか書いていないが、何が原因なのか? もはや遺伝子とかのレベルで説明できることではない。日本の歴史、文化、社会のもつ「特異性」かもしれない、と思うに至った。しかも、最近の中高年に著しいと聞けば、これは文化・社会学的観点からの新たな分析が必要だ。
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