12月6日(2020年)未明、小惑星探査機「はやぶさ2」が、小惑星「りゅうぐう」の砂が入っているとみられるカプセルを地球に送り届けた。カプセルは早ければ8日にも日本に空輸され、神奈川県相模原市の宇宙科学研究所に到着する見通しだ。本書『宇宙と生命 最前線の「すごい」話』(青春出版社)は、このタイミングに合わせるかのように出版された。「はやぶさ2」で何がわかるか? プロジェクトにかかわった科学者が解説している。
著者の荒舩良孝さんは、科学ライター・ジャーナリスト。著書に『5つの謎からわかる宇宙』(平凡社)、『思わず人に話したくなる地球まるごとふしぎ雑学』(永岡書店)など。
「はやぶさ2」と2020年にノーベル物理学賞を受賞した「ブラックホールの研究」を冒頭で特集している。このあたりの機動性は、書籍というより雑誌に近い。
「はやぶさ2」プロジェクトにかかわる科学者を束ねるプロジェクトサイエンティストを務めている名古屋大学の渡邊誠一郎教授と固体有機物分析チームのリーダー、広島大学の薮田ひかる教授にインタビューしている。
渡邊教授は「リュウグウのサンプルは、その物質ができたときや、熱などによって変化を受けたときなどの歴史が刻みこまれています。それは太陽系の歴史を書き込んだ日記のようなものです。私たちは、分析機器を使って、その日記を読むことで、太陽系の歴史を読み解こうとしているのです」と話している。
サンプルの分析は具体的にどのようにされるのか? 薮田教授は次のように話している。
「私たちのチームでは、サンプルをほとんど加工しないで、リュウグウで有機物がどのように存在しているのかを明らかにしたいと考えています。顕微鏡などで拡大しながら、赤外線からX線までのいろいろな波長の光を当ててサンプルを分析する顕微分光分析などの手法を使い、サンプルの中に不均一に存在している有機物をていねいに分析して、太陽系の情報を読み解いていきたいと思います」
ターゲットにしているのは、水や有機溶媒などに溶けにくい有機物だ。強い酸にも溶けないような見た目が黒くて炭のような有機物を分析すると予想している。
これまでの観測から、リュウグウを構成する岩石は、他の小惑星や隕石よりもすき間があり、どちらかと言うと彗星のような氷でできた小天体に近いものだったという。つまり、リュウグウの母天体は、太陽系ができた直後に氷が豊富な太陽系の外縁部でつくられて、今の位置まで移動してきた可能性があるという。
今後、リュウグウのサンプルを詳しく分析すれば、太陽系の歴史がはっきりとわかり、地球生命のもとになった有機物がどのようにできたのかも明らかになる。
これらの特集を踏まえて、本書は以下の構成になっている。
第1章 宇宙を知れば"生命の起源と進化"がみえてくる 第2章 地球外生命が存在する!? "生命の痕跡"の数々 第3章 最新鋭の望遠鏡が見た"第2の地球" 第4章 宇宙の最前線! ここまで進んだ"移住計画"
現在の火星は荒涼な惑星だが、誕生したばかりの火星は海に覆われ、温暖な惑星だったことがわかってきたという。太陽系に地球のような惑星はないのか? 生命存在の3条件「有機物、水、エネルギー」がそろう天体が土星の衛星「エンケラドス」だ。
表面の亀裂から氷が噴出していることが、2005年、土星探査機「カッシーニ」の観測によって分かった。冷たい氷の惑星と思われていたエンケラドスの内部には熱い熱水の海が存在する可能性が高いという。噴出物には微小なシリカ(二酸化ケイ素)が含まれており、90度以上の熱水がないとつくられないからだ。
このような天体として、木星の衛星エウロパ、ガニメデ、カリストと冥王星が挙げられる。太陽系には地球以外の海に、未知の生命が存在している可能性があるという。
さらに太陽系以外の系外惑星は4300個あまりが発見されている。地球に似た大きさの岩石惑星もたくさんある。
2018年に打ち上げられた系外探査衛星TESSは、地球に近い場所にある系外惑星を探している。広い宇宙の中で地球にしか生命が存在しないと考えるほうが不自然だとする、天文学者はたくさんいるという。将来、地球外生命が発見されれば、我々の宇宙観、世界観は大きく変わるだろう。
「はやぶさ2」のサンプルの帰還がもたらすであろう新たな知見に期待したい。
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