読むべき本、見逃していない?

最新天文学の理論と実験の成果を魅力的な具体例で解説

  • 書名 宇宙の「果て」になにがあるのか
  • サブタイトル最新天文学が描く、時間と空間の終わり
  • 監修・編集・著者名戸谷友則 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2018年7月20日
  • 定価本体1000円+税
  • 判型・ページ数新書判・ 246ページ
  • ISBN9784065124994

 科学入門書ブルーバックスの『宇宙の「果て」になにがあるのか』(講談社)は昨年(2018年)7月の刊行以来、順調に版を重ねている。著者は東大大学院理学系研究科天文学専攻の教授。専門は宇宙物理学、天文学で、観測を意識した理論の研究をしているそうだ。理論と観測の橋渡しをしている研究者なのだろう。

 近年、この分野の発展は目を見張るものがある。2015年、アメリカにあるLIGO(ライゴ)という実験施設で、重力波が観測されたというニュースが新聞の1面を飾った。だが、重力波の検出がなぜ、それほど大ニュースなのかは記事を読んでもよくわからなかった人が多かったはずだ。

スペースシャトルの中はなぜ無重力なのか

本書は天文学や物理学に関心を持ちながらも、研究の進歩にはなかなかついていけない人に研究の意味や意義をわかりやすく解説してくれる。

 LIGOは二つのブラックホールが合体する際に放出された重力波の検出に初めて成功したが、これは「相対性理論の正しさが改めて証明されるとともに、ブラックホールが存在するという、最も強力な証明が得られた」ことになったという。実はアインシュタインが重力波の存在を予言したのが1916年、発見公表が2016年だったので、予言からちょうど100年目の発見という最高の結果につながった。

 著者は1990年代、天文学専攻の大学院生だった。その当時は「正直言って重力波が検出できるのは遠い将来の話という印象」で、天文学の世界で当時、同様に関心を集めていた「暗黒物質の正体解明と重力波の検出と、どちらが早く実現するか、という賭けをしてみたら私も含め、多くの人は暗黒物質の方に賭けただろう」と語る。こうした平易な語り口が本書の大きな魅力に違いない。

とはいっても、中味は非常にオーソドックスで、最先端の宇宙研究に不可欠な相対性理論の知識についても必要な範囲で概要をきちんと説明してくれる。これもほとんど数式なしという素晴らしさだ。

 エピソードも豊富で読者をうならせる。たとえば「スペースシャトルの中はなぜ無重力なのか?」という質問に、多くの人は「地球の重力が及ばないから」と答えるというが、これは完全な誤り。「地上にいる我々と、軌道上のスペースシャトルで重力の大きさは実はほとんど変わらない」。正解は「みんな一緒に落ちているから」とかなり意外なもの。「スペースシャトルは地球の表面に沿って高速で運動している。スペースシャトルの落ち方が地球の表面の曲がり具合にぴったり合っていれば、スペースシャトルは永遠に地球の周りを回りながら、落ち続ける」のだそうだ。人類が宇宙空間に飛び出す前、飛行機を急降下させ、自由落下に近い機体の内部で重力の小さい状態を作り出していたのと似ている。

宇宙は引き伸ばされて今は半径約464億光年の球

 それでは書名にある「宇宙の果て」はどこにあるのだろう。宇宙は138億年前に始まったと考えられている。そして、「宇宙には光より早く伝わるものは存在しない」。というわけで138億光年先が「果て」のような気がするが、実はそうではないという。われわれの宇宙は実際には、約464億光年の半径を持つ球なのだという。これも「えっ」と驚くような話だが、「光が昔に通過した領域はその後の宇宙の膨張により引き伸ばされているので、光が通ってきた距離の長さを今の宇宙で測れば、約464億光年になる」のだという。

 これを「観測可能な宇宙の果て」というそうだ。「最新鋭の地上巨大望遠鏡や宇宙望遠鏡によって、宇宙が誕生してからまだ5億年、宇宙の大きさが現在の10分の1だった頃の銀河が観測されている。この銀河までの、現在の宇宙における距離は310億光年になるから、人類の天体観測はすでに観測可能な宇宙の果てまでの66パーセントに到達していることになる。時間軸で言えば、138億年のうちの133億年、実に96パーセントまでさかのぼっている」。宇宙はかなり奥深くまで人類の観測の手が及んでいるわけだ。

 宇宙誕生から約38万年の頃に発された電波は、「宇宙マイクロ波背景放射」と呼ばれている。まったく偶然に起きたこの電波の発見が、1978年のノーベル物理学賞につながった。この電波が出発した地点は、「我々から455億光年の彼方にある。観測可能な宇宙の果てまでの実に98パーセントである」という。評者も大昔、ふと宇宙の「果て」がどうなっているかを考えて、なかなか寝つけなかったことがあるのを思い出した。

 親切な著者は「宇宙の果て」だけでなく、「宇宙は将来どうなるのか」についてもきちんと教えてくれる。それは読んでのお楽しみということに。

 最後になかなか魅力的な書名のいわれについて。著者が宇宙論関係の本を書こうと想を練っていたとき、ブルーバックス編集部から「『宇宙の果て』で書いていただくことはできませんかね?」と依頼されたという。書名はそのまま、内容は最新の宇宙論や天文学の話ということになったのだろう。だが、記述はわかりやすく、エピソードも豊富で、読んで楽しめると同時に、科学最前線の雰囲気やぬくもりを感じることができる。宇宙や天文学に関心のある読者に広く読んでほしい一冊だ。

 関連で本欄では『宇宙はどこまでわかっているのか』(幻冬舎新書)、『天の川が消える日』(日本評論社)、『ホーキング博士』(宝島社)なども紹介している。

BOOKウォッチ編集部 レオナルド)

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