読むべき本、見逃していない?

情報過多社会のメディアとの付き合い方、データをもとに考える

アフターソーシャルメディア

 書名を見ても内容はすぐに思い浮かばない。サブタイトルを見て、「ははあ」こういうことなのかと少しイメージが浮かんでくる。本書『アフターソーシャルメディア』(日経BP社)は現代の「情報過多社会」のなかで、個人が多すぎる情報とどう付き合っていけばいいのかを多くの調査データとともに考えさせてくれる。執筆者はメディア関連企業の第一線で働く人たちや法政大学社会学部、NHK放送文化研究所、博報堂DYメディアパートナーズのスタッフ8人。それぞれの出身元が調査してきた豊富なデータをもとに、それを解説する形で構成されている。編集は法政大学大学院メディア環境設計研究所。

 本書はまず現代を「スマートフォンやソーシャルメディアにより爆発的にメディアが増加し、それによって引き起こされた『情報過多社会』」と定義する。そうした情報過多のなか、「情報を的確に選択するサービス」か「友達と情報を共有するサービス」のどちらを選ぶべきか、この二択のなかで議論を進めていく。さらに5Gやモノがインターネットとつながる「IoT」(Internet of Things)社会では情報がもっと増える、と追い打ちをかける。こうした「情報過多」の危機感のなかで、歩むべき道筋を探るというのが本書の特徴だろう。

一日当たりのメディア接触時間は400分を超える

 評者が感心したのはこうした議論を進めるために用意されたデータの豊富さだ。たとえば一日当たりのさまざまなメディアへの接触時間。これは博報堂が毎年実施しているが、2006年に1日335.2分だった接触時間は2008年にやや下がるがその後は伸び続け、19年の調査では411.6分と初めて400分を超えた。 1日7時間寝ると考えると起きている時間の4割にあたる計算だ。メディア別の構成比をみると、2006年には51.3%あったテレビは2019年では37.4%に、パソコン、タブレット、携帯電話・スマホのデジタルメディアは20.2%から49.9%に躍進した。中でも携帯・スマホは2006年に3.3%だったのが2019年には28.6%と10倍近くに増えた。凋落著しいのは新聞、雑誌で2006年の9.6%、5.9%だったのが、19年には4%、2.6%に減少している。

 スマホの躍進は目覚ましい。だが、多くの人はスマホに「アンビバレントな」(相反する感情を持った)気持ちを抱いているという。これも同じ調査で、スマホが「自分にとってなくてはならない」と答えた人は全体の67.2%いるのに、「利用する時間を減らしたい」という人も40.6%に達した。10代や20代は6割以上が「減らしたい」と答え、いかにスマホ依存の生活かを示している。

トイレや風呂でもスマホ利用が当たり前に

 一方、NHK放送文化研究所の調査では、深夜をのぞいてほぼ一日スマホを利用している現実が浮かび上がってくる。とくに「朝起きてすぐ」と「寝る前」の利用が多く、全体では47%と61%、16~29歳までの若い世代では男女とも「朝起きてすぐ」が6割以上、「寝る前」は8割を超えている。「通勤・通学の移動中」も男女とも6割前後で、「テレビを見ながら」も5割近く、「入浴中」も若い世代だと10%を超える。「ながら」と「すきま」で利用時間が増えているようだ。

 同じNHK放送文化研究所の調査で、毎日利用するメディアをジャンルごとに調べてグラフをつくるとソーシャルメディア中心の若い世代とテレビや新聞が中心の中高年とのグラフが40~49歳くらいのところで交差する。若い世代が新聞を読まず、テレビもそれほど見ないのに対し、年齢が上がるにつれてテレビや新聞の比率は急上昇し、逆に若い世代がよく使うソーシャルメディアは急降下する。

 ソーシャルメディアもその媒体によって利用のされ方が大きく異なるのも特徴だ。とくにLINEは2012年に20%程度だった利用率が2018年には8割に到達、「ニュースやゲーム、タイムラインなどさまざまな機能を持ち、いまや多くの人にとって情報インフラのような存在」になっているという。

 これに比べ、「Twitterは、16~19歳と女性20代では7割以上、男性20代も半数以上が利用」する。ところが30代になると男女とも利用者は2割台に減少する。一方、「Instagramは女性20代で6割と突出して多いが、同じ20代でも男性では3割に」とどまる。Facebookは「男女とも30代で最も多く使われて」いる。

 調査ではインタビューも同時に実施されていて、「Twitterはメモ、Instagramは思い出アルバム」などのユーザーの実際の声も紹介されている。

 本書では大学の学生を対象にした調査結果も紹介されている。どういう経路でニュースに接触したかの調査では、「Yahoo!ニュースとTwitterがニュースの入り口となる媒体」という回答が一番多かった。

 評者が興味深かったのは最近の若者の「ダブルスクリーン」という独特のメディア視聴方法だ。たとえばスマホとタブレットのスクリーンを上下に並べ、タブレットでは日ごろ見ているテレビのバラエティ番組の最終回、スマホでは「YouTubeで別のバラエティ番組」を見るという「ながら視聴」だ。こうしたやり方で画面に没入できるとは思えないが、時間に追われる若者には余暇時間の有効な利用法といえるのかもしれない。

年齢で大きく異なるデジタルメディアとの馴染み方

 もうひとつ興味深かったのは「メディア環境の経験の差」という図表だ。デジタルメディアの出現はいずれもつい最近のことだが、その出現時期と年齢を比較したものだ。本書によると、たとえばインターネットの商用利用開始は1993年、Googleの登場は1998年、YouTubeは2005年。iPhone/Twitter/Facebookの登場は2008年、LINEは2011年、Instagramは2014年、Netflixは2015年だった。もし1990年生まれだと、8歳でGoogleが登場し、18歳でiPhoneなどに出会う。それが1970年生まれだとインターネットに20代前半で遭遇、Googleとの出会いは20代後半だが、LINEとは40代に入ってからということになる。いつ生まれたかでメディア環境が激変することがよくわかる。世代間でソーシャルメディアとの馴染み方に大きな差が出るのは当然のことだろう。

 本書の結論は必ずしもはっきりしないが、豊富なデータで現代を生きる世代の間に大きな格差やずれが生じることは理解できる。結論を求めるのではなく、多くのデータから今日の社会の世代間の分断や受け止め方の格差を考えるうえでは好著といえるだろう。

BOOKウォッチ編集部 レオナルド)

 


  • 書名 アフターソーシャルメディア
  • サブタイトル多すぎる情報といかに付き合うか
  • 監修・編集・著者名法政大学大学院メディア環境設計研究所 編
  • 出版社名日経BP
  • 出版年月日2020年6月29日
  • 定価本体2200円+税
  • 判型・ページ数A5判・262ページ
  • ISBN9784296105618

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