読むべき本、見逃していない?

「吹奏楽の甲子園」目指してまっしぐら! のはずだった

私たちの負けられない想い。

 春の選抜と夏の甲子園の中止はニュースで大々的に報じられた。その一方で、「吹奏楽の甲子園」とも呼ばれる「全日本吹奏楽コンクール」もまた中止されていた。10月から11月にかけて開催が予定されていた「全日本吹奏楽コンクール」「全日本小学生バンドフェスティバル」「全日本マーチングコンテスト」。そのすべてが中止に追い込まれていたのだ。

 本書『新・吹部ノート――私たちの負けられない想い。』(ベストセラーズ)は「日本で唯一の吹奏楽作家」というオザワ部長が、昨年(2019年)7月から11月にかけて吹奏楽の強豪である7つの高校を取材した記録。吹奏楽部員たちが「負けられない想い」を綴った「ノート」を手がかりにしながら、全国大会を目指す「熱い」青春を追ったドキュメンタリーとなっている。

 「日本人が初めてイギリスの軍楽隊の隊長から吹奏楽を習い始めてちょうど150年が経った2019年――令和元年の『吹奏楽の甲子園』。その裏側にあった汗と、涙と、音楽に彩られたストーリーをお読みください」

 本書の帯には「吹奏楽の"甲子園"へ 涙、苦悩、歓喜...ブラバン『スポ根』物語」とある。ここに記録された全国大会を目指す「熱い」青春は、本来なら今年も全国各地で繰り広げられているはずだった。ところが、このコロナ禍。大きな目標を失った高校生たちは、どんな想いで過ごしているのだろうか......そんなことを思いながら読みはじめた。

吹奏楽は「熱い」音楽

 著者のオザワ部長は、1969年生まれ。早稲田大学第一文学部文芸専修卒。吹奏楽関係の書籍を多数出版するほか、ラジオパーソナリティ、テレビ番組の監修、CDの選曲・ライナーノーツ執筆、コンサートのコーディネート、講演・ワークショップ、YouTube、SNSなど、幅広く活動している。本書は「吹部ノート」シリーズ第4弾。

 一般的に「ブラバン」の愛称で呼ばれることが多い吹奏楽は「熱い」音楽です、とはじめに書いている。吹奏楽で主に使われる楽器は、木管楽器(フルート・クラリネット・サックスなど)と金管楽器(トランペット・ホルン・ユーフォニアムなど)。人間の生命の根本である「息」で奏でる管楽器には奏者の気持ちが乗りやすいこと、楽器の特性上大きな音を出しやすく、音の出だしや切れもはっきりできることから、吹奏楽は「熱い」音楽が生まれるという。

 吹奏楽の世界でもっとも「熱い」のが、「全日本吹奏楽コンクール」高等学校の部。地区大会、都道府県大会、支部大会を勝ち抜いた30校が全国大会に出場できる。各校の人数制限は55人。2019年度は1422校が地区大会・都道府県大会出場。全国大会金賞は8~10校。全国の吹奏楽部員がその頂点を目指す。

「何かに一生懸命であれば」

 「自分の演奏技術、部内の人間関係、勉強との両立......たくさんの悩みを抱え、ときには失敗をしながらも、一歩一歩前に進んでいく若者たち」を支えるのは、自身の「負けられない想い」を綴った「ノート」だった。

 本書に掲載されている「ノート」の写真を見ると、整然としていたり筆圧が強かったり書き殴っていたり......。書き手の心情がそのまま字面に表れていると感じた。本書の目次と登場する7つの高校は以下のとおり。

01 2019.07 夏、コンクールという「海」への船出のとき
  明誠学院高等学校 吹奏楽部(岡山県)
02 2019.08 ひとりひとり、青春の花を咲かせて
  埼玉県立伊奈学園総合高等学校 吹奏楽部(埼玉県)
03 2019.08 部長を交代してでも「全国初出場」をつかみ取る!
  小松市立高等学校 吹奏楽部(石川県)
04 2019.09 "命がけ"の全国大会。そして、僕たちは大人になる...
  福島県立磐城高等学校 吹奏楽部(福島県)
05 2019.10 呼ばれなかった学校名。それでも『突破』は続く!
  八王子学園八王子高等学校 吹奏楽部(東京都)
06 2019.10 帰ってきたカリスマ先生と「奇跡」吹奏楽部!
  活水高等学校 吹奏楽部(長崎県)
07 2019.11 初めての全国大会、青春をかけた12分間
  東海大学付属大阪仰星高等学校 吹奏楽部(大阪府)

 灼熱の部内オーディション、全国を目指す吹部に走った亀裂、衝撃の部長交代劇、勉強と部活......進学校ゆえの葛藤、全国大会とともに少年時代が終わる、緊迫の代表校発表の瞬間など、青春のにおいがするタイトルが並ぶ。高校時代をとうに過ぎた評者からすると、懐かしさとともに若干の嫉妬さえ覚えるほど眩しい青春模様が綴られていた。

 吹奏楽を経験できるのは多くの場合、小学校高学年、中学、高校、大学の部活やサークルだろう。ただ、興味はあっても悩んだ末に他の部に所属したり、卒業後に興味を抱いたりで、結局一度も経験したことがない......という人も多いのではないだろうか。

 「吹奏楽経験者はもちろん、もしアナタが経験者でなくても、何かに一生懸命であれば、きっと本書に登場する吹奏楽部員たちの思いや言葉が心に響くことでしょう。あるいは、『自分も何かに一生懸命になってみよう!』と思えるかもしれません」

 高校生たちの一生懸命ぶりをヒシヒシと感じるうちに、「あのころはよかったなぁ......」にとどまらず「また何かに夢中になりたい!」と思えてくる。

コロナ禍にも負けられない

 先月末に放送された「沼にハマってきいてみた」(Eテレ)では、吹奏楽の強豪校がコロナ禍でどんな活動をしているのかを紹介していた。本書の著者であるオザワ部長も出演し、「ブラバン最高 吹奏楽愛」の刺繍を施した学ランを羽織って全国の吹奏楽部の今をリサーチしていた。

 吹奏楽は密閉・密集・密接の3密が基本であり、「全日本吹奏楽コンクール」をはじめ、やはり地元の演奏会なども軒並み中止。各校では、換気のため全教室に扇風機を配置、飛沫防止のため指揮台の前にビニールの仕切りを設置、医療従事者を応援するリモート演奏動画を公開、自粛中は「おうち部活」など、さまざまなコロナ対策が実施されていた。福島県立磐城高等学校では、甲子園高校野球交流試合に参加する野球部に自作の応援CDを渡すなど、吹奏楽部と野球部の交流も見られた。

 目標を失い、絶望も悔しさも当然ある。しかし、それでもめげない。彼らの「負けられない想い」は、コロナ禍に対しても向けられていた。ちなみに評者は中学時代、吹奏楽部でトロンボーンを吹いていたが、何かに必死で取り組んだ経験は何年経っても心のよりどころでありつづけるのだな、と思う。数ヵ月後、来年の今ごろはどうなっているかわからないが、今できることを探して、懸命に音楽と向き合っている高校生たちを応援したい。

 「本書が吹奏楽をしているすべての人にとって応援と励ましの1冊になること、吹奏楽の経験がない方にとっては『吹奏楽ってこんなに面白いんだ!』『自分も何かに夢中になりたい!』と思っていただける1冊になることを切に願っている」

 オザワ部長は本書の最後をこう結んでいる。本来は目標に立ち向かう吹奏楽部員への「応援と励まし」だろうが、今となってはコロナ禍に立ち向かう吹奏楽部員への「応援と励まし」にもなっている。

 BOOKウォッチでは、吹奏楽関連で『高校野球を100倍楽しむブラバン甲子園大研究』(文春文庫)も紹介済み。





  • 書名 私たちの負けられない想い。
  • サブタイトル新・吹部ノート
  • 監修・編集・著者名オザワ部長 著
  • 出版社名ベストセラーズ
  • 出版年月日2020年1月10日
  • 定価本体1350円+税
  • 判型・ページ数四六判・309ページ
  • ISBN9784584139554

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