世の中にはユニークな人がいる。本書『子どもとスポーツのイイ関係』(大月書店)の著者でスポーツライターの山田ゆかりさんもその一人だ。米国インディアナ州立ボール大学に学び、ジョージア州立大学訪問研究員をしていたこともあるのだが、16年前、岐阜県飛騨市のウォークイベントに招かれたことがきっかけで、飛騨に住むようになる。そこでじっくり子どもたちのスポーツクラブに関わってきた体験が本書のもとになっている。
山田さんは、子どもとスポーツの関係が近年、二極分解していると見ている。めんどうくさいからスポーツは苦手、嫌いだという子が増えている。一方では、真逆に、部活やスポーツ少年団では勝利至上主義がはびこり、運動をやらされすぎの子どもたちがいる。どちらのケースも、スポーツと子どもの関係がいびつになっている。
山田さんが関わる「飛騨シューレ」は2005年にスタートした。当初は行政の受託事業でのちに民営化、岐阜県認定総合型地域スポーツクラブに成長した。現在は子ども30人余、大人40人、サポーター20人で構成されている。学年や性別、障がいの有無などにこだわらない活動を大切にしてきた。
飛騨シューレの子ども向けプログラムの中で、「売り」は「スポーツワーク」。トップレベルのアスリートやコーチと子どもたちが遊ぶ。運動神経が鈍いといわれ、運動嫌いだった子どもの目が輝く。教え方が上手なので、できないと思っていたことができるようになるのだ。駄目だといわれていた子が自信を回復する。
山田さんは地元の小学校で「健康教室」の授業も受け持ってきた。一年に300人ぐらいの子どもと9年間かかわってきたから、シューレ以外の子どもたちの様子も見てきた。そこでは、部活やスポーツ少年団の有力選手として期待されている子が、早くも故障を抱えている実態も知った。肘や膝を痛めているのだ。
山田さんはスポーツライターとして長年、雑誌「アエラ」などで生真面目な記事を書いてきた。著書に『勝つ! ひと言――名監督・コーチの決めセリフ』(朝日新書)、『女性のからだとスポーツ』『女性アスリート・コーチングブック』(大月書店)などがある。スポーツを科学的な視点からとらえなおし、スポーツと女性、スポーツと子どもの関係などがテーマだ。翻訳の仕事もしていたし、米国留学などで海外事情にも詳しい。
最近スポーツ界ではパワハラ、セクハラ、強引な指導が問題になっているが、山田さんは20年ほど前から問題提起を続けてきた。2000年には『スポーツ・ヒーローと性犯罪』(ジェフ・ベネディクト著、大修館書店)を翻訳、この方面についてはとくに詳しい。本書でも地域スポーツの現場ではびこる暴力・暴言支配、パワハラ、セクハラについて言及している。地方に行くほど、「勝利至上主義」の「カリスマ・コーチ」がやりたい放題らしい。親も引きずられ、子どもは我慢を強いられる。
本書では「一流コーチたちの実践紹介」として、ソフトボール、テニス、柔道、ホッケー、バスケットボール、野球、サッカーの事例が取り上げられている。野球で登場しているのは、なんと東京の超難関私立・開成高校野球部監督の青木秀憲さんだ。元東大野球部員。東大大学院の修士、博士課程で体育理論を深めた専門家だ。飛騨シューレ立ち上げ当時からの付き合いだという。
本書では「100人の選手がいれば100通りの指導法があります」という青木さんのメッセージが掲載されている。うるさ型が多いであろう開成高校野球部員を納得させる理詰めの指導法とはいかなるものか。野球に関心がある人は、ここだけ読んでも参考になるだろう。
本欄では『女性アスリートの教科書』(主婦の友社)、『ジュニアスポーツコーチに知っておいてほしいこと』(勁草書房)なども紹介している。
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