読むべき本、見逃していない?

又吉直樹さんが最先端の科学者から知恵を引き出す

  • 書名 又吉直樹のヘウレーカ!
  • 監修・編集・著者名「又吉直樹のヘウレーカ!」番組制作班 著
  • 出版社名扶桑社
  • 出版年月日2019年3月20日
  • 定価本体1300円+税
  • 判型・ページ数四六判・188ページ
  • ISBN9784594081669

 芥川賞作家でお笑い芸人の又吉直樹さんは、NHKEテレとの相性がよほどいいらしい。行動経済学の観点から人間社会を分析した番組「オイコノミア」に出演していたと思ったら、とうとう自分の名前がついた冠番組「又吉直樹のヘウレーカ!」(水曜日午後10時~)を昨年度(2018年)から持つようになった。

金縛りは"睡眠まひ"のせい

 本書『又吉直樹のヘウレーカ!』(扶桑社)は、その中から9本をピックアップして書籍化したものである。「ヘウレーカ!」とは、古代ギリシアの科学者アルキメデスが入浴中に浮力の原理を発見した時に叫んだ言葉とされる。日本語にすると、「わかった!」とか「見つけた!」という意味になる。番組には毎回ユニークな研究をしている科学者が登場し、又吉さんとやりとりする。評者もたまに見ているが、「なるほど」と説明に納得するとともに、「よくこんなことを研究しているものだ」と感心することしきりだ。

 本書に取り上げられているテーマはこうだ。

 なぜ植物は"スキマ"に生えるのか?
 "金縛り"はなぜ起きるのか?
 サボる"アリ"はいないのか?
 月はなぜヒトの心を捉えるのか?
 "男はつらい"ってホント?
 本当のことは目に見えないのか?
 魚も迷子になりますか?
 ホントに鳥は飛びたいのか?

 まずは興味をもったところから読めばいい。評者はたまたま放送で見た"金縛り"の項を読み、ますます理解を深めた(ような気がする)。登場するのは生命科学者の上田泰己さん(東京大学大学院医学系研究科教授)。睡眠や覚醒、体内時計などをテーマに生命システムの時間の解明に取り組んでいる人だ。

 幽霊の仕業かと切り出した又吉さんに、上田さんは「金縛りというのは、レム睡眠中にたまたま目が覚めてしまったという状況で、体はまだ起ききっていない"睡眠まひ"と呼ばれるような状態だと言われているんです。頭と体の不一致みたいなことが起きているだけなんです」と説明する。金縛りとは、睡眠から覚醒への移行期に生じる、一時的な全身まひの症状だというのだ。

 そこから話は、上田さんが取り組んでいる睡眠研究へと移る。2014年に上田さんのグループは、ほ乳類を全身透明化することに世界で初めて成功。細胞をそのままに透明化することで、脳をまるごと観察することが可能になった。マウスの脳には約1億個の細胞があり、どの神経細胞が睡眠の中枢を司るのかを調べているという。

 夜になると眠くなるのは、人間の細胞の時計遺伝子が働くためであるとか、時計遺伝子が24時間を刻むメカニズムについて、「砂時計」説と「色が変わる時計」説があり、議論が続いているという。ちなみに上田さんは後者の説に立って研究しているそうだ。

鳥はそんなに飛んでいない

 「ホントに鳥は飛びたいのか?」という疑問に答えてくれるのは、鳥類学者の川上和人さん(森林総合研究所主任研究員)。『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』(新潮社)などの著書があり、2012年に絶滅を疑われていたミズナギドリの一種を再発見したことでも知られる。

 「鳥が苦手」と告白する又吉さんに、川上さんは鳥と人間には共通点が多いと指摘する。そして鳥の祖先はまちがいなく恐竜だったことをレクチャーする。なぜ恐竜が空を飛ぶようになったかについて、逃げるためだったと推測する。

 飛ぶためには体を小さくしなければならない、大きなエネルギーを必要とするため、鳥はそんなに飛びたくないと思っているそうだ。番組スタッフが調べたところ、30分間に飛んでいた時間は、ハトが約24秒、カラスが約35秒、スズメが約1分15秒というから、意外に鳥は飛んでいない。

 番組で使った画像やデータも数多く掲載されているので、わかりやすく科学にアプローチできる。大人よりも中高校生に読んでもらいたいと思った。

 巻末の番組スタッフを見ると、テレコムスタッフとテレビマンユニオンの2社が名前を連ねている。各回両社が内容を競い合っていると予想される。番組が高い水準を保っているのはそのせいかもしれない。

 又吉さんはMCとして、素朴な疑問に始まり、高度で最先端の内容までうまく議論を回している。知的だが、そう見せないところに又吉さんの芸があるのだろう。活字化された本書のやりとりを読み、その念を深くした。

 NHKEテレの芸人関連本では、『NHK 芸人先生』(宝島社)を紹介済みだ。

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