本を知る。本で知る。

渋沢栄一なら、今どんな投資をするだろう

お金を話そう。

 よくわからないことについては、簡単な入門書を読む。これはどんな達人でもやっていることだ。たしか「知の巨人」といわれる立花隆さんも、知らないジャンルに挑戦するときは、易しい入門書を三冊読むと語っていたと記憶する。

 本書『お金を話そう。』(弘文堂)もそうした三冊に入る一冊といえそうだ。全体がクイズ形式。ややこしいお金の話のイロハが、いつの間にか頭に入っていく。著者の藤野英人さんは投資家、日本最大級の投資信託「ひふみ投信」ファンドマネジャー。

投資のことは話しにくい

 最初の質問Q.1は「あなたは正直、『お金』って好きですか?」。まずは軽い肩慣らしで、読者を一歩前に進める。「好き」「嫌い」「どちらでもない」の三択から答えを選ぶ。どの答えを選んでも正直、大きな変わりはない。著者の藤野さんの「お金は過去の自分の缶詰であり、未来の自分のエネルギーが詰まった缶詰でもある」と語る。なるほど、ではもう少し本書におつきあいしよう。

 Q.2は「あなたは家族や友人と『お金の話』をよくしますか?」。三択は「家族とも友人とも話す」「家族とは話すが、友人とは話さない」「ほとんど話題にしない」。

 藤野さんの分析によると、「節約や貯蓄のことは話せても、投資のことは話しにくい」。これは「人様に迷惑をかけるかもしれない」という心配があるからだという。実際のところ金融庁の調査でも、世の中の7割の人が「金融や投資に関する知識を身につけたいとは思わない」と答えているそうだ。日本人はかなりピュア。お金儲けと距離を置きたいという人が多いと言えそうだ。

 ここで本書を手にする人の7割は脱落するのかもしれない。しかし、Q.1に戻れば、お金は「未来のエネルギーが詰まった缶詰」でもある。さらに前に進むか、諦めるか。そこは判断の分かれるところだ。

お薦めの入門書も

 このあと、本書ではさらに「Q.5:あなたは昨日1日で使ったお金の内容を答えられますか?」「Q.10:あなたは将来、年金にどの程度期待していますか?」「Q.20:あなたは今の給料に満足していますか?」などの問いが続く。そして「Q.27:あなたはどんなスタイルの投資がしたいですか?」「Q.30:投資家が選ぶべき『いい会社』とはどんな会社でしょうか?」をクリアして、「Q.31:現在、『投資信託』は日本に何本あると思いますか?」で締めとなる。

 このあとさらに、いくつかの投資についての簡単な説明と、「『お金』についての入門書紹介という「おまけ」が付いている。本書以外にも手を広げて知識を深めてほしい、という正直な構成になっている。

 一般に「投資」については進める側と、説明を受ける側の「知識格差」「情報格差」が激しいと言われる。銀行員や証券会社員と対等に近い知識を持つまでやるべきではない、と警鐘を鳴らす本もある。本書をきっかけに多くの人がお金に関心を持ち、人生を考えるきっかけになれれば著者としても本望というところだろう。

 投資はインフレの時にするべきだという指南書も読んだことがある。今はインフレではない。新一万円札は、日本資本主義の生みの親と言われる渋沢栄一になった。多種多様な企業の設立に関係した人だ。東京商科大学(現・一橋大学)の創立にも関わっている。渋沢栄一なら今どんな投資をするだろうか。そんなことにも思いが巡る。

 本欄では『はじめての人のための3000円投資生活』(アスコム)、『投資バカ――50歳を過ぎたら取ってはいけないお金のリスク』 (宝島社新書)なども紹介している。

  • 書名 お金を話そう。
  • 監修・編集・著者名藤野英人 著
  • 出版社名弘文堂
  • 出版年月日2019年3月29日
  • 定価本体2100円+税
  • 判型・ページ数A5判・176ページ
  • ISBN9784335450600
 

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