非常にタイムリーな本ではないだろうか。『女性アスリートの教科書』(主婦の友社)。このところマスコミでは、女性のスポーツ選手が何かと話題になっている。東京オリンピックも2年後に迫ってきた。コーチや選手は記録や勝負にこだわるあまり、大切なことをおろそかにしていないか。女性選手のカラダは男性とは大きく異なるのだが、そのことをどれほど自覚してトレーニングしているのだろうか。
冒頭でいきなり、スピードスケートの高木美帆さんが登場する。冬季五輪で金メダルを取った高木さんでも、やはり思春期に体形が変わって能力が落ちたことがあったという。高校のころには、自分で栄養学の本を読んで体重管理に取り組んだそうだ。お弁当も「揚げ物」はやめた。
新体操でシドニー五輪の団体5位に入賞し、日本選手権では6連覇を果たした村田由香里さんの話はもっと深刻だ。今は結婚して妊娠6か月だというが、18歳から24歳まで無月経だった。実家を離れ、東京暮らしをしていたので体重は自己管理。痩せることにこだわり、2か月で5キロ減らしたら月経が止まり、貧血に悩むようになった。シドニー五輪に出場したときはフラフラの状態だったという。
水泳選手だった別の女性は中学3年のとき初潮が来て体重が5キロ増えた。どんなに練習してもタイムが落ちていく。その理由が当時はわからなくて、精神的にも追い詰められたという。
本書はこうした具体例も挟みながら、女性アスリート特有の問題や悩みについて40項目に分けて説明する。「月経周期のタイプ別、コンディショニング方法」「女性アスリートに多い視床下部無月経症とは」などきめ細かい。
著者の須永美歌子さんは日本体育大学教授。もともとは陸上競技の選手だったという。日体大の大学院を出てから昭和大医学部で医学博士号を取得し、東大大学院で特任研究員として研究に従事していた。現在は「月経周期を考慮したコンディショニング法」や「女性の形態的・生理的特性を考慮したトレーニングプログラム」の開発を目指して研究している。
須永さんが強調するのは「男性と女性の体は根本的に違う」ということだ。ところが伝統的に日本のスポーツ指導は、男性を対象とした方法論が中心となっている。それを援用しながら女性選手を指導しているので、女性特有の生理現象を考慮しているとはいいがたい。その結果、月経異常や骨粗しょう症などの重大な健康被害が起きていると指摘する。女性のスポーツ選手について昨今、苛酷な指導がしばしば問題になっているが、教える側がどの程度こうした問題を自覚しているのか、不安に感じる。
女性の場合は、女性ホルモンの影響を受けるというのが男性との最大の違いだという。そのことをきちんと理解し、女性の健康を損なうことなく能力を磨き、女性としてもアスリートとしても輝けるようになるためには、何をどうすればいいか。マスコミでも最近この問題は、しばしば報じられているが、本書はデータや図表もたっぷり。イラストも添えられている。文章もこなれて、非常に読みやすい。一般向けに書かれているので、部活少女や、ジムでフィットネス、市民マラソン、健康ジョッギングなどを楽しむ人たちにとっても、読んでためになりそうだ。
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