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高校の部活で「イノシシ退治」の方法を見つけた!

部活魂! この文化部がすごい

 野球部やサッカー部だけが部活じゃない! 本書『部活魂! この文化部がすごい』(ちくまプリマー新書)は全国16の文化部を紹介している。読売中高生新聞に連載されている人気企画を新書化したものだ。編集部の記者が学校を訪ね、生徒や先生に取材し、ドラマ仕立てのノンフィクションとして再構成している。

水族館部やファッション部も

 文化系の部活では吹奏楽部の人気が高い。ダンス部も注目を集めている。テレビでよく見かけるのはクイズ研究会だ。本書で取り上げられているのは以下の各部だ。

 Ⅰ 頂点を目指せ!
 富士高 百人一首部 ── 和歌の高嶺に腕を振りつつ
 米子高専 放送部 ── アクション!
 開成中・高 クイズ研究部 ── 知の決闘
 Ⅱ 壁を乗り越えて
 逗子開成高 演劇部 ── 男だらけの舞台で
 帝京安積高 吹奏楽部 ── ステップは止めないで
 所沢高 文芸部 ── 五七五の世界
 大曲高 書道部 ── 情熱の筆さばき
 Ⅲ 奥深き文化部の世界
 花巻農業高 鹿踊り部 ── シカの輪は回る
 大泉桜高 手話部 ── 手から聞こえる
 北陵高 バルーン部 ── 空中散歩
 洛南高付属中 ディベート部 ── 闘論
 明星学園高 ファッション部 ── ランウェーの魔法使い
 Ⅳ いま理系がアツい!!
 日比谷高 雑草研究会 ── 下を向いて歩こう
 普連土学園 理科部 ── 夢をのせて、発射!
 長浜高 水族館部 ── 教室に大海原
 利根実業高 生物資源研究部 ── 敵はイノシシなり

午前5時に学校に集合

 昔からある部活が少なくないが、変わり種をいくつか紹介しよう。一つは、佐賀県北陵高のバルーン部。高校の熱気球部だ。佐賀県は「インターナショナルバルーンフェスタ」で知られている。世界のおよそ20か国から参加者が訪れ、熱気球を上げる。100万人近い観客が訪れる。

 地形が平たんで田んぼが多くて、どこに着陸しても大丈夫ということで会場になったようだ。稲刈りが終わったころの10月末から翌年2月と、麦刈りが終わった6月がシーズンだそうだ。

 バルーンは風速6メートルを超えると飛ばせない。そこで風の弱い朝が狙い目だ。午前5時に学校に集合して、出発地点の河川敷に行くということが普通だという。

 利根実業高の生物資源研究部もユニークだ。谷川岳に近い群馬県沼田市にある。野獣から農作物を守る方法を研究する部活だという。都会っ子にはちょっと想像できないにちがいない。

 生物資源研究部の実験区は市内から車で30分ほどの山の中にある。ときどき出かけて、ロープで囲まれた2メートル四方のスペースがイノシシに荒らされていないかを確認する。

 方法はシンプル。仕掛けを施した場所と、仕掛けのない場所にそれぞれリンゴや芋を埋めておき、食い荒らされていないかを確認する。近くにはカメラがセットされており、何かが動くと自動的にシャッターが下りる。

高校環境化学賞で最優秀賞

 イノシシは農家にとっての天敵だ。田畑を掘り起こしてエサにありつこうとするからだ。生物資源研究部は約10年前から対策に取り組んできた。様々な方法に挑戦し、先輩たちが試行錯誤を続けた。現在の方法を見つけたのは2014年、畜産の授業で「豚は赤と緑を見分けられません。青は識別できる」と習ったのがきっかけだ。試しに実験区を青色で囲ってみたらどうなるか――。イノシシは来なくなった。

 なぜイノシシは青色を避けるのか。その理由は16年の日本哺乳類学会で、ある大学の先生から受けたアドバイスで解明された。「イノシシの視界を再現してみたら?」。

 緑色が感知できない、視力は0.1程度などのデータをパソコンに入れると、くすんだモノクロの世界が広がった。その中で青色だけがぼんやりと怪しく浮かび上がる。イノシシが青色を避ける理由がつかめた。

 部員たちはクリスマス用の電飾を用意し、夜も青色がはっきり識別できるようにセットした。研究成果は18年の「第3回全国ユース環境活動発表大会」で特別賞、「第13回高校環境化学賞」で最優秀賞に輝いた。仕掛けを取り入れる農家も増え、企業からの問い合わせもあるという。

 利根実業は農業系と工業系の二つの学系があるそうだが、ここまで行くと、もはや部活とは言えないかもしれない。できれば工業系と協力して、製品化に取り組んでもらいたいものだ。

小説風の書き方

 読売中高生新聞は14年11月に読売新聞東京本社から創刊された中高生を対象とした週刊新聞。タブロイド判24ぺージ、毎週金曜発行。写真やグラフなどを多用したビジュアルな紙面で、政治・経済・社会・スポーツなど、世の中の出来事を10代向けにわかりやすく解説する。読売新聞社は若者の読書離れ、新聞離れを食い止めようと、活字文化推進に積極的に取り組んでいる。

 部活紹介自体は難しくないと思われるが、編集部で苦労したのは、小説風の書き方で紹介する、という連載のスタイルだった。記者もデスクも経験がなかった。しかし、本書を読む限りで成功しているようだ。今ごろはあちこちの高校から、「紹介希望」が届いているのではないだろうか。

 ネットで調べると、利根実業高は、全国高校生そば打ち選手権大会で優勝したこともあるようだ。様々な高校選手権の上位校を訪ね歩けば、企画はまだまだ続くことだろう。

 BOOKウォッチでは関連で『高校野球を100倍楽しむ ブラバン甲子園大研究』(文藝春秋)、『子どもとスポーツのイイ関係』(大月書店)、『ブラック部活動』(東洋館出版社)なども紹介している。『ナチスに挑戦した少年たち』(小学館)は、一種のクラブ活動として反ナチの抵抗運動をしていたデンマークの少年たちの実話だ。



 


  • 書名 部活魂! この文化部がすごい
  • 監修・編集・著者名読売中高生新聞編集室 著
  • 出版社名筑摩書房
  • 出版年月日2020年6月10日
  • 定価本体880円+税
  • 判型・ページ数新書判・256ページ
  • ISBN9784480683786
 

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