本書『ニキ』(ポプラ社)は、第9回ポプラ社小説新人賞の受賞作だ。本の帯に「イタイ高校生×ヤバイ先生」とあり、読んでみたら、ミステリーのような純文学で不思議な味わいの作品だった。
著者の夏木志朋さんは、1989年大阪府生まれ。大阪市立第二工芸高校卒。本書がデビュー作だ。
高校生の田井中広一は黙っていても、口を開いても、つねに人から馬鹿にされ、世界から浮き上がってしまう。激しいいじめを受けている訳ではないが、ただただ軽んじられている。何か思ったことを正直に言うと、「自分は特別ですアピール」をしていると、からかわれる。
小学校5年の頃に両親が離婚してすぐ、都内から母の実家がある県に越してきた。前の学校では「宇宙人」と呼ばれてきた広一に「委員長」の女子は、何かとコミュニケーションを取ろうと接近してきた。
普通になろうと、好きな音楽や本を楽しむことは一切やめた。ヒット曲を聴き続け、感性を変えようと「特訓」したが、ダメだった。母は昔からこう言っていた。
「広一はユニークね。色々言われちゃうのは、周りのレベルが低いからよ。あんたはそのまま堂々としてればいいの」
高校に入り、広一が「この人なら」と唯一、人間的な関心を寄せたのが美術教師の二木良平だった。穏やかな人気教師で通っていたが、広一だけが裏の顔を知っていた。
本屋で成人向け雑誌を万引きしようとして捕まった広一。店員に家族か学校の担任か、どちらかに連絡しないと警察に突き出すと言われ、二木に連絡してもらう。彼には狡猾な狙いがあった。
広一は、二木が成人向け雑誌にロリコン漫画を寄稿していることを知っていたのだ。そして、二木を脅し、とんでもない取引をもちかける。
ここまで読むと、生徒と教師が対決し、何かとんでもないことが起きそうなサスペンス小説のような展開が始まると思うだろう。実際、「ロリコンのくせに。変態が偉そうなこと言うなよ」と罵声を浴びせる広一だった。
ところが、二木の家にいりびたるようになり、やりとりを重ねるうちに、実は二木に認められたいためにつきまとっていることを指摘される。認めてもらうためには何かをしなければならない。
小学校の頃、空想の物語を書いていた広一は、たまたま読んだ小説に刺激され、その二次創作をする。作品の感想を求められた二木は才能を認め、書き直しを勧める。ここから物語は熱を帯び始め、転調の兆しを見せる。
勉強もせず小説に没頭していることを知った母親は二木にクレームの電話をかけるが、ある新人賞に応募すること、広一には才能があり、実力を試す機会をあげて欲しい、と口八丁で丸め込まれる。
さらに、二木は教室で「田井中が新人賞に出す小説を書いているから、皆、応援してあげて」と公言する。プレッシャーをかけられたと怒る広一だったが、クラスで激しいいじめが始まる。そしてクライマックスを迎える。
小説内小説も出てくるが、本書こそが、広一が書こうとしたものではないかと錯覚するほど、書くことに対する欲求の強さにたじろぎを覚える。
「イタイ高校生」とはコミュニケーション不全の広一を指し、「ヤバイ先生」とはロリコン趣味をもつ二木を指しているのだろう。しかし、二人の相互作用によって、さわやかな感動の結末を迎える。
筋が読めないという点では、純文学というよりミステリーの様相を持ちながら、主題は直球ど真ん中だ。いかに他者を理解することが困難であるのか、その隘路に踏み出す勇気の大切さを教えられた。
「破格の新人デビュー」という版元の宣伝文句はまんざら嘘ではなかった。
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