本を知る。本で知る。

世界一の満足度を誇る国、デンマークの底力を知った

ナチスに挑戦した少年たち

 ナチスに抵抗した人は少なくない。すぐに思い浮かぶのは「白バラ」だ。ドイツ国内の学生グループ。首謀者は捕まって死刑になった。このほかフランスなど、ドイツに占領された国々でもレジスタンスが続いた。オードリー・ヘップバーンもオランダでの少女時代、反ナチの協力者だったという。

 本書『ナチスに挑戦した少年たち』(小学館)はデンマークの話。それも少年たちが独自に抵抗運動を組織していたという実話だ。日本ではあまり知られていない。本当にこんなことがあったのかと驚くこと請け合いだ。

お偉方はドイツのご機嫌取り

 1940年4月9日、ドイツ軍がデンマークに侵入する。ほんの2、3時間の戦闘でデンマーク軍は屈服した。ドイツ軍に降伏するなら、行政権、警察権など内政には手を付けない、国民に危害も加えないという。すなわちドイツ保護下の友邦となるのか、破滅を選ぶのか、という恫喝にデンマークは「保護下」になる道を選ぶ。隣国のノルウェーにも同じ日にドイツ軍が侵攻したが、こちらでは戦闘が続き、多数の犠牲者が出ていた。

 町にはドイツ兵が我が物顔であふれだす。デンマーク人の大人は、「保護下」の暮らしに安住する。お偉方はナチスと手を組んでドイツのご機嫌取り。

 デンマーク南部に生まれ育った中学生、クヌーズ・ビーダスンたちは面白くなかった。もともとデンマークでは第二外国語がドイツ語だったから、ドイツに親近感を持っていた大人も少なくない。しかし、新聞にはノルウェーの戦況が載っていた。ドイツの攻勢を伝える宣伝臭の強い記事だ。裏読みすれば子どもでも、ノルウェーが抵抗していることがわかる。BBCを傍受すると、ヨーロッパの情勢が伝わってきた。もう大人には頼れないと、子どもたちだけで抵抗運動を始める。

 最初にやったのは、ドイツ軍車両のために新たに設けられたドイツ語の道路標識を壊すことだった。続いてドイツ軍の司令部と兵士の宿舎をつなぐ電話線の切断も。一歳上の兄らと、ほんの数人で「小さなゲリラ活動」をやり始めた。

仲間しか信用しない

 その後、ビーダスンは父の仕事の関係で北部の町に引っ越す。そこで、より本格的な組織の構築に取り掛かかった。ドイツと戦うイギリスのチャーチル首相にちなんで、組織の名前を「チャーチルクラブ」とした。メンバー選びには細心の注意が必要だった。ばれたら殺されるかもしれない。いくつかの原則をつくった。

 ・大人には、絶対にこの活動を教えてはならない。仲間しか信用しない。
 ・銃器を手に入れることが出来ても、学校には持ち込まない。
 ・ドイツ軍の武器を盗むぐらいのことをしないと、仲間には入れない。
 当時、ドイツ軍の武器を盗んで捕まると死刑になることが多かった。死を覚悟できるかどうか、それが仲間になれるかどうか、だった。

 組織は三つに分けた。宣伝、工作、実働。宣伝部隊はドイツ軍の車両に「反逆」のマークをペンキで描いたり、ドイツの協力者の店や事務所に「戦争で大もうけ」と殴り書きしたり。工作部隊では爆弾を製造した。実働部隊はドイツ軍の施設の破壊や、武器の奪取を担当した。これらを15、6歳の少年たち、最年少は14歳も交えて、自分たちだけの構想で計画実行した。ちょっと世界的にも例がないレジスタンスだった。やがて彼らは捕まるのだが、そのことで活動ぶりが知られ、逆に大人たちに勇気を与えたという。

デンマークのたくましさの一端を知る

 本書は、米国の児童文学者フィリップ・フーズが、たまたま立ち寄ったデンマークのレジスタンス博物館で「チャーチルクラブ」のことを知ったのがきっかけ。館長に聞くと、メンバーの何人かは存命だという。そこでビーダスンとコンタクトを取り、長時間のインタビュー、1000通を超えるメールのやり取りを経て、子どもでも読めるノンフィクションとしてまとめ上げた。

 「レジスタンス」という政治的なテーマを扱っているが、堅苦しくなく、まるで『十五少年漂流記』のような、少年たちの冒険譚としても読むことが出来る。訳文が非常に読みやすい。誰の訳かなと思ったら、有名な金原瑞人さんだった。

 デンマークは小国だが、アンデルセンやキルケゴールを生み、サッカーも強くて、国連による世界満足度調査では一位になっている。ニールス・ボーアなど理系のノーベル賞受賞者も多い。人口比だと、日本の10倍を超える。創意工夫、ひらめき、独創性。本書を通じてデンマークのたくましさの一端を知った気がした。

 ドイツの学生たちの抵抗運動「白バラ」は映画で見たことがあるが、「チャーチルクラブ」の活動も映画になっておかしくない。それとも、すでになっているのだろうか。

  • 書名 ナチスに挑戦した少年たち
  • 監修・編集・著者名フィリップ フーズ 著、金原 瑞人 訳
  • 出版社名小学館
  • 出版年月日2018年6月29日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数B6判・304ページ
  • ISBN9784092906136
 

デイリーBOOKウォッチの一覧

一覧をみる

書籍アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

漫画アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?