今年もサンマが不漁だった。初競りでは1尾1000円以上の値がついた。去年も不漁だった。本書『温暖化で日本の海に何が起こるのか』(講談社ブルーバックス)を読めば、これが単なる年ごとの変動ではなく、地球温暖化による地球規模の生態変動の一例であると確信するに違いない。
著者の山本智之さんは朝日新聞社の科学記者として、趣味の潜水を生かし、日本周辺の海だけではなく南極海やガラパゴス諸島の海などにも潜って海洋の問題を取材してきた人である。
地球温暖化の海洋への影響は、南極の氷が解けて海水面が上昇することに注目されがちだった。しかし、本書は日本周辺の海洋の生態系の変化に焦点を当てている。
まずは海水温の上昇により、日本周辺海域で、南方系の魚介類が北上する。たとえば、南方から暖かい海流にのって日本周辺に回遊し、冬が越せずに死滅する「死滅回遊魚」が、いつの間にか「越冬回遊魚」になりつつあるらしい。相模湾や駿河湾では、20年前まで死滅回遊魚とされていた熱帯・亜熱帯性魚類のうち、23科59種が越冬するようになっているという。日本海側の舞鶴湾での調査でも、1970年代には見られなかったのに、2000年代に入って見られるようになった魚が35種もあるという。
日本海でのサワラの漁獲量の増加、北海道海域でのブリの漁獲量の増加も水温上昇のおかげだ。一方で、ニホンウナギと同じように南海でふ化するマアナゴの幼生は冷たい水を好んで移動するため、かつて大漁場だった瀬戸内海区での漁獲量が激減している。
サンマはエサの豊富な北太平洋で育ち、南下して黒潮域で産卵する。日本のサンマ漁はこの南下するサンマをねらう。しかし、最近は日本周辺の海水温が高いため、なかなかサンマが南下しない。これが近年の不漁の大きな原因という。日本のサケ漁の未来はもっと暗い。「温暖化が進む今世紀末には、日本周辺の海はサケが帰ってこられない水温になる」という研究もあるという。
大気中の二酸化炭素の増加は地球温暖化だけではなく、海の酸性化も引き起こす。二酸化炭素がより多く溶け込むからだ。わずかな酸性化でも、炭酸カルシウムの殻や骨格を持つ生き物に大きな影響を与える。
貝類は稚貝の殻が薄くなって捕食されやすくなり生存率が低下した、イソ筋エビでは触角が短くなり折れやすくなって生存率が4割も下がった、バフンウニなどでは左右の腕の長さが非対称になり海中での姿勢制御が難しくなって分布を広げる能力が低下する――などのことが実験で明らかになっている。
実際の海でも、サケやニシンなどのエサとして重要な有殻翼足類のミジンウキマイマイの殻(炭酸カルシウム)の密度が下がり、人間でいえば骨粗しょう症のような状態になっていることが分かっている。流氷の海で見られるクリオネはミジンウキマイマイだけをエサにしている。「エサがなくなればクリオネも生きていけなくなる」と研究者は心配している。
水温上昇で苦境にある日本のサンゴは、北上することで生き延びようとしている。しかし、酸性化は北にいくほど強い。挟み撃ちである。その結果、「2070年代には、日本近海のサンゴの生息適地は消滅するおそれがある」と指摘する研究者もいる。
地球の近年の気候変動(温暖化)については、1990年代半ばごろまでは、まじめな科学者の中にもまだ疑いを持つ人が少なくなかった。しかし、その後の気候変動は、残念ながら、ほとんど当時の予測(たとえば、台風の数は増えないが、大型台風は増える)通りになりつつある。あのトランプ大統領ですら最近は「地球温暖化は深刻な話」だと言い出している。
本書は読んで楽しい内容ではない。しかし、「不都合な真実」にもきちんと向き合い、少しでもまともな地球を子孫に残したいものである。
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