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「ウィンチェスター」はインディアンの霊に呪われた!

アメリカと銃

 アメリカでは銃乱射事件が繰り返されている。銃規制を求める声も高まっているが、反対派の力も強くて進まない。本書『アメリカと銃――銃と生きた4人のアメリカ人』(共栄書房)はそうしたアメリカ社会の姿を、少し歴史をさかのぼり、象徴的な4人の人物にスポットを当てて浮かび上がらせたものだ。意外な話も盛り込まれており、トリビア的な読み応えもある。

銃はアメリカそのもの

 著者の大橋義輝さんはルポルタージュ作家。明治大学、米国サンノゼ州立大学、中国アモイ大学、二松学舎大学などで学ぶ。元フジテレビ記者・プロデューサー、週刊サンケイ記者。著書に『おれの三島由紀夫』(不死鳥社)、『韓国天才少年の数奇な半生』『毒婦伝説』『消えた神父を追え!』『拳銃伝説──昭和史を撃ち抜いた一丁のモーゼルを追って』などがある。

 経歴には生年が記されていないが、ベトナム戦争が激しかったころ、ヒッピーに憧れていてアメリカに渡ったことが出てくるので、現在は70歳前後と思われる。

 本書は以下の構成。

 第1章 銃社会アメリカ
 第2章 サラ・ウィンチェスター夫人の奇妙な行動
 第3章 銃を愛した大統領、セオドア・ルーズベルト
 第4章 大統領を襲った銃と、征服された者の"呪い"
 第5章 文豪ヘミングウェイと銃
 第6章 ジョン・ウェインが放つ銃

 なぜ、アメリカで銃乱射事件は繰り返し起きるのか。それを考える時、アメリカという国は成り立ちから銃とは切っても切れぬ関係であることを理解する必要がある、銃はアメリカそのものといっても過言ではない、と著者は指摘する。

部屋数160の豪邸

 本書タイトルの「4人」とは、サラ・ウィンチェスター夫人、セオドア・ルーズベルト、ヘミングウェイ、ジョン・ウェインだ。この中で圧倒的に興味深いのは「第2章」のサラ・ウィンチェスター夫人だ。

 簡単に紹介すると、サラは1862年、22歳の時に銃器メーカー「ウィンチェスター社」の御曹司と結婚した。4年後に一人娘をもうけたが、生まれて9日後に死去。さらには夫も早逝し、サラは40代そこそこで未亡人になる。

 いったいなぜ不幸が続くのか。当時有名だった霊媒師に占ってもらったところ、「ウィンチェスター家は呪われています。銃で殺されたインディアンたちの霊によって、あなた達に不幸がもたらされているのです」という見立てだった。そして霊媒師は西部への引っ越しと、そこで「家を造り続ける」ことを託宣した。建築をストップすると、サラ自身が呪い殺されるのだという。

 この託宣に従ってサラは、カリフォルニア州サンノゼで豪邸の建築に着手する。敷地面積は20万坪。東京ドーム14個分。最初は8部屋の中古物件だったが、増築を続けて部屋数160、エレベーター3基、7階建てになり、窓は一万に膨れ上がった。

 屋敷の中心部にはサラ本人しか立ち入ることができない。そこには窓のない秘密の部屋があった。死者の霊魂と交わる部屋だったという。

幽霊屋敷として有名に

 この豪邸は、銃事業による莫大な遺産や株式収入をもとに、延々と増築が続いた。まるでスペインのサグラダファミリアのようだ。1922年にサラが82歳で亡くなって、ようやくストップした。

 その後、なぞに包まれた豪邸の調査が行われた。からくり屋敷のように、壁の向こうにまた新たな部屋があった。コンクリートで作られた頑丈な金庫の一つからは30センチ四方の大事そうな箱が出てきた。誰もが固唾を呑んで中身に注目したが、入っていたのは生後9日で亡くなった娘の髪の毛や産着だった。釣り糸も出てきた。亡くなった夫は釣り好きだった。夫の死を報じた新聞の切り抜きもあった。サラが児童養護のような施設に多額の寄付をしていたこともわかったという。

 屋敷はのちに「ミステリーハウス」(幽霊屋敷)として有名になり、歴史登録財になった。大橋さんはサンノゼにいたころ見学したことがある。床の穴から、階下がのぞける仕組みになっていたという。

 ウィンチェスター社は西部開拓時代にウィンチェスター・ライフルM1873で銃ビジネスのトップ企業に躍り出た。銃業界は1861~65年の南北戦争で「戦争太り」し、71年に全米ライフル協会が設立されている。

「侵略」という言葉は口にされない

 米国と銃の関係は1620年のメイフラワー号にさかのぼるとみられているが、当時、この船に銃が積載されていたかどうかの記録はないという。西部開拓では先住インディアン1000万人以上が殺されたといわれているが、その歴史は、「フロンティアスピリット」として称賛されている。「侵略」という言葉はけっして口にされない、と著者。

 そういえばかつて読んだ精神分析の本に、こうしたアメリカの歴史が、無意識のうちにアメリカ人のトラウマになっている、と書いてあったことを思い出した。先住民の土地を武力で奪取した歴史を正当化するには、自分たちを「善」とする必要がある。アメリカ人は常に自己を正当化しがちだというのだ。BOOKウォッチで紹介した『アメリカはなぜ戦争に負け続けたのか』(中央公論新社)によれば、アメリカは2年に一度ぐらいのペースで世界のあちこちで戦争に関与しているが、「イラク戦争」などでも、自分たちを「善」の立場に置いて戦争を正当化しようとする心理が働いていたに違いない。

 大橋さんは書いている。

 「アメリカという国は、銃をかざしながら相手を征服し、強大な国になった歴史がある。銃とともに刻んできた歴史に正統性を与えているのだ」

ライフル銃を突き付けられた経験

 銃に関し、米国憲法修正第2条には、「規律ある民兵は自由な国の安全にとって必要であるから、人民が武器を保蔵しまた携帯する権利は侵してはならない」と書いてあるそうだ。現代社会の市民的なルールや道徳観で、アメリカの銃問題をあれこれいっても、「西部開拓」を通して今日の強大国家を作り上げたと自負する人々には通じないのかもしれない。西部劇でのそうしたヒーローの代表が、本書にも登場するジョン・ウェインとなっている。

 先の精神分析の本には、日本に関しても書いてあった。黒船来航と太平洋戦争の敗北・占領によって、二度もアメリカに屈服を強いられたことが日本のトラウマになり、アメリカに対しては無条件にひれ伏すことが習性になっているというのだ。「武力」を重視するアメリカと、そのアメリカに弱い日本。日米関係の深層心理ともいえる。

 大橋さんはアメリカで学生生活を送っていたころ、友人とドライブ中に未知の森に迷い込んだことがある。突然大男に「Who You!(お前はだれだ)」とライフルを突き付けられた。迷路かと思った森はその男の私有地だった。大慌てでUターンして逃げたという。危うく当時の大ヒット映画「イージーライダー」の主人公のように撃たれるところだった。

 アメリカではワシントンからトランプまで45代の大統領のうち、狙撃死が4人、狙撃されたものの命を取り留めたのが5人だという。ケネディは暗殺され、レーガンは弾丸が左胸を直撃したが、助かった。大統領選でも銃規制が話題になるが、アメリカの歴史を振り返ると、単純ではないことが理解できる。

 


 


  • 書名 アメリカと銃
  • サブタイトル銃と生きた4人のアメリカ人
  • 監修・編集・著者名大橋義輝 著
  • 出版社名共栄書房
  • 出版年月日2020年8月11日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・224ページ
  • ISBN9784763410948
 

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