9月1日は、18歳未満の人が一年でもっとも自殺する日として知られている。例年ならば夏休みが終わり、学校の始業式が始まるのを苦にする子どもが多いからだと言われている。本書『苦しい時は電話して』(講談社現代新書)は、自殺防止のための電話サービスをしている坂口恭平さんが書いた。表紙に「090-8106-4666」という携帯電話の番号を掲げ、「もうダメかも......」という人はぜひ、かけてと呼びかけている。
坂口さんの名前を見て、「あれっ」と思った。坂口さんは1978年熊本生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒。建築家、作家、絵描きなど多彩な活動で知られる。2011年5月、「新政府」を設立、「初代内閣総理大臣」に就任。その経緯を『独立国家のつくりかた』(講談社現代新書)に書いた。それを読んだ記憶があった。そんな人がなぜ?
前述の番号は「いのっちの電話」の番号だ。本家本元の「いのちの電話」がつながりにくいことから、坂口さんが2012年から一人で勝手に始めた。「新政府いのちの電話」と名乗っていたが、「熊本いのちの電話」から商標登録侵害で訴えると警告され、「いのっちの電話」に変えた。
1日に7人ほどかけてくるので、1年だと2000人を超える。もちろん無償だ。もう活動は10年ちかくになる。「自殺者をゼロにしたい」という思いから始めたが、坂口さん自身が「死にたくなるから」と本当の理由を明かしている。
坂口さんは躁鬱病(双極性障害Ⅱ型)と診断を受けている。躁状態と長い鬱状態を何度も繰り返している。
「躁状態の時と鬱状態の時は、記憶が完全に分断されてしまいます。治ればまた元気になるとは考えることができず、もうこのままなのだ、一生深く沈んだまま生きていくのだ、と断定してしまいます」
こんなことならもう死にたい、と坂口さんは周期的に死にたくなるという。そして、「死にたい時は、毎回、全く同じ状態である」ことがわかったという。
「死にたくなる状態とは、熱が出たり、咳が出たり、血が流れたりすることと同じように、どんな人にも起こりうる症状だから対処可能なのではないか――」
それが、「いのっちの電話」を続けてきた実感だという。
そんな坂口さんなりの自殺念慮への対処の仕方を書いている。「第一のポイントは反省をやめる」こと。やめられない場合は、「ひとつ作業を入れてみてください」。次に「体が気持ちいい」と感じることをやってみる。
このほかに、「いつも通りのふりをしてみる」「10分、悩みまくる」「朝ごはんだけ、つくってみる」「まずはお米を研ぐ」「ついでに外に出かける」。こうしているうちに、「気持ちがいい」と感じることが少しずつ、あなたを楽にしていくはずです、と書いている。
「いのっちの電話」の具体的なやりとりもいくつか紹介している。また、2019年1月には、警察署からの電話で、坂口さんに電話をかけてきた女性が自殺していたことがわかり、大きなショックを受けたことを明かしている。もうやめようかとも思ったが、自殺は誰にでも起こりうること、そのことについて対話する場をつくっていかなければと続けているそうだ。
坂口さんは原稿を書いたり、絵を描いたりすることで生計を立てている。しかし、すぐに鬱になるため、出来るだけ依頼仕事をしない、自分がやりたいと思う仕事を自発的にする、当日キャンセルする可能性があることを理解できる人とだけ仕事をするなどの方針で乗り切ってきたという。
仕事でストレスを抱えて死にたくなっている人にこう呼びかけている。
「迷わず、仕事をやめ、生活保護をしばらく受けながら、自分が何をしたいのか、全く嫌な時間がないという生活を経験してもらいながら、ゆっくり考えるということを勧めています。生活保護がいけない、怠けている、とか言う人もいますが、何のために税金払っているんですか。死ぬくらいならさっさと仕事をやめて、趣味に夢中になってほしいです」
死にたいという人でも電話で話していると、ほぼ全員に何かしら好きなことがあるという。世間的にいけないこととか、人に言えないことでもいいから、やってみましょうとアドバイスしている。
坂口さんには、写真集『0円ハウス』(リトルモア)のほか、『TOKYO 0円ハウス 0円生活』(河出文庫)、『隅田川のエジソン』(幻冬舎文庫)、『TOKYO一坪遺産』(春秋社)、『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』(太田出版)など25冊の著書がある。
超アクティブな人だと思っていたが、人知れず鬱に苦しんでいたことを知った。坂口さんにとって、「死にたい時=つくる時」なのだという。
「死にたくなるのは懸命に生きてるから」とメッセージを送っている。
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