本書『パンティオロジー』(集英社インターナショナル 発行、集英社 発売)は、アーティスト・秋山あいさんがさまざまな年齢・国籍・職業の女性33人を取材したもの。彼女たちが持っているパンティの中でいちばん「セクシー」「リラックス」「お気に入り」の3枚(計99枚)を、秋山さんが繊細なイラストで再現。また、彼女たちが語った一枚一枚の思い出、パンティ哲学を書きとめている。
「パンティの数だけ哲学がある――99枚に秘められた女性たちの思い」。本書は、世界各国の女性たちのパンティ事情を知ることができてしまう、ちょっと異色の一冊である。
著者の秋山あいさんは、1973年東京都生まれ。93年渡仏。仏ボルドー市立エコール・デ・ボザール卒業。パリと東京を拠点に創作活動と作品発表を行う。「考現学的視点」で暮らしや風俗を観察し、今を生きる人々の物語を、鉛筆や水彩のドローイングで描き出す。パリの裏窓から見える風景、山手線の車窓から見た風景を切り取った作品、生活雑貨、建物、人物を描いた作品などがある。
まず、本書のタイトル「パンティオロジー」とは一体なにか。どんな経緯でパンティをテーマに取材することになったのか。はじめに書いてあることを要約すると......
ずいぶん前、秋山さんは絵を描いてブログに掲載していた。自分のパンティを描いたところ思いもよらずさまざまな反響があり、そのうち自然と「ほかの人はどんなパンティをはいているのだろう?」と気になってきたという。そこで浮かんだのが「パンティオロジー」という言葉だった。
「学問ならば、いろいろな人を巻き込んで、パンティの話を聞くことができ、研究の途中経過を発表することができる。しかもかねてから尊敬してやまない『考現学 Modernology』のオマージュになるではないか......」と考え、学問的アートプロジェクトともいうべき「パンティオロジー」は始まったという。ちなみに、「考現学」とは考古学に対する造語。現代の社会現象を組織的に研究し、考察する学問のことをいう。
「パンティは、ブラジャーよりもはるかにパーソナルで、また性に直結しています。ふだん人に見せることのないその一枚の布から、個々の物語と時代性が浮かび上がるのではないかと、わくわくしました」
秋山さんは、2014年から19年まで約100人の女性を取材。彼女たちの職業はジャーナリスト、作家、弁護士、医師、キュレーター、アーティスト、ミュージシャンなど。国籍は日本、フランス、アメリカ、イタリア、ポーランド、イランなど多岐にわたる。本書はその中から33人を掲載し、彼女たちのパンティ紹介が大半を占める。
そのほか、「パンティコラム」(見られることを知っている/パンティは心の鏡/ 「サービスパンティ」の日/フランスの男と女とランジェリー/パンティとお年頃)、「はみ出しパンティepisode」(イランの「手縫いのパンティ」/コケティッシュおばあちゃんのパンティ/恋愛観とコットンパンティ)、「掲載メーカーリスト」を収録。
親しい間柄でも、あえて下着の話をすることは稀ではないだろうか。何枚持っている? どのタイミングで買い替える? いくらぐらいかける? どんなデザイン? など、本書を読むまで知る由もなかった他人のパンティ事情が赤裸々に記録されている。
33人のデータをザッとまとめると、一人あたりの所有数は10~70枚、平均20~30枚ほど。一枚あたりの金額は数百円から1~2万円、平均1000~2000円ほど。股上浅め、化学繊維、レースや花柄のものが多かった。中には、身体のことを考えて股上深め、綿のものを愛用する人もいて、親近感が湧く。
ちなみに、「パンティ」という呼び方は一般的なのだろうか。評者の場合、ふつうは「パンツ」、ちょっと意識しても「ショーツ」である。「パンティ」という言葉がなんだか恥ずかしく感じられ、使うのがはばかられるのは評者だけだろうか......。
Wikipediaを見ると、どうやらアメリカ英語のようだ(panties)。ワコールのアンケートには、「パンツ」「ショーツ」と呼ぶ人が9割以上とあった。日本で「パンティ」と呼ぶ人は少数派ということらしい。ただ、「パンティ」という商品名で販売している国内メーカーもあり、それぞれの呼び方に明確な区別、意味の違いがあるわけではなさそうだ。
ここでは、5つのコラムから「パンティとお年頃」を紹介しよう。パンティの傾向は年齢によって変わってくるとして、年代別に次のように分析している。
10代終わり~20代初めは、どのような大人の女性になりたいか、何が好きなのかを探りつつ、いろいろなタイプを身につけ始める冒険期。
30歳前~30代半ばまでは、結婚、出産、仕事などそれぞれのライフスタイルを力強く選び生きていく。そのなかで「自分の選択が果たしてこれでいいのだろうか」と立ち止まることも、周りの女性たちがキラキラと眩しく、何をしてもかなわないような、取り残されたような気持ちになることもある。「そんな心情もパンティに反映されているように感じます」。パンティにこだわりのある人とそうでない人に大きく分かれる傾向にあるのもこのころ。
そして経験を重ね、自分を知り、自分を受け入れる術を身につけた30代後半ぐらいから、とても明確に選択していく充実期に入る――。
「女性たちは人生のシーンによって、はくものを替えることがわかってきました。それぞれのその時どきのパンティの哲学があるのです」
「パンティにこだわりのない人」に分類される者として、カルチャーショックを受ける一冊だった。見えないところにも美を追求する女性たちの意識の高さに、背筋の伸びる思いがした。本書は、秋山さんのパンティ画の作品集として楽しむこともできそうだ。
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