パリはファッションの聖地である。様々な有名ブランドが咲き乱れる。フランスは世界の女性のあこがれの国だ。
ところがフランス人は10着しか服を持たないという。ホンマかいな、と思う。よくある「タイトルの引っかけ」ではないだろうか、まあ騙されたつもりで読んでみよう、ということで手に取った人もいるだろう。
本書『フランス人は10着しか服を持たない』は2014年に発売されて、あっというまに50万部を超えた。その後も第二弾、第三弾が続いて、コミック版や文庫版も出た。総計100万部を突破したというからスゴい。結果的にタイトルに「引っかかった」人が多かったということになるのだろうか。
いや、本書はネーミングのみの勝利ではない。実際にフランス人は10着しか服を持たないということが縷々書かれている。
著者のジェニファー・L・スコットさんはアメリカ人女性。大学生の時、交換留学でパリの大学に行くことになった。大きなスースケース2個に服をぎゅうぎゅう詰め込んで、ホームステイ先に着いた。貴族の末裔という由緒ある家で暮らすことになる。立派な部屋を割り当てられた。ところが、ワードローブが小さい。何これっ、持ってきた服が入らないじゃない!
ホームステイ先の奥様、マダム・シック(仮名)によると、家族はみんな、それぞれの部屋で小さなワードローブを使っている、それで足りているのだという。
ちなみにマダム・シックの冬用ワードローブにはウールのスカート3~4着に、カシミアのセーターが4枚、シルクのブラウスが3枚、ご主人のムッシュー・シックのワードローブにはグレーのスーツ2着、紺のスーツ1着、セーター2~3枚、シャツが4枚、ネクタイが2~3本。みなさん、シンプルライフなのだ。
マダム・シックの家が特異ケースというわけではない。同時期に一緒にアメリカからホームステイでフランスに来た友人たちに聞いてみると、どこの家でもワードローブが小さい、というのだ。
こうしてジェニファーさんのフランス・ショックの日々が始まる。びっくりしたのは「服」だけではない。マダム・シックは毎日のように買い物に出かける。スーパーではなく、パンも食材もなじみの専門店に足を運ぶ。車は使わず、徒歩でショッピングカートを引っ張りながら。運動になるからという。
アメリカにいたころ、ジェニファーさんは週に一回、車でスーパーに行ってまとめ買いをしていた。それがアメリカ人の日常だった。運動はジムでするものだった。フランスでの生活は、それまでのアメリカンスタイルを根底から考え直させるものだった。
服の話に戻ると、アメリカでは同じ服を一週間に2回着るのは恥ずかしかった。まして3回なんてとんでもない。ところが、フランスでは同じ服をしょっちゅう繰り返して着ることが当たり前だった。それも堂々と――。
アメリカ映画の登場人物の女性は、絶えず服を着替えている。ところがフランス映画では、よく見ると、そうではない。ヒロインの女性が数か月間で3着しか着替えてなかったりすることに気づいた。
本書は、ジェニファーさんがアメリカに戻って、留学時代の話などを書いたブログがもとになっている。アメリカ人読者の間で評判になり、書籍化された。さらにそのあと多数の国でも翻訳された。アメリカ型のライフスタイルは世界に広まっているだけに、質素倹約型のフランスのライフスタイルが新鮮に感じられたのだろう。日本で読まれたというのも「アメリカ型」の生活に染まってしまっているからに違いない。その意味ではすぐれて文明論的な本でもある。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?