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ちょっとしたことで「和」は楽しめる

「和」を楽しむ美しい作法

 「和」の作法を心得ている。日ごろから「和」を意識して暮らしている――。そうした日本人はもはや少数派ではないだろうか。しかし、「和」の暮らしはすぐにでもできることばかり。ちょっとしたことで「和」は楽しめるという。

 たとえば、玄関に打ち水し、窓から清風が訪れる特等席を見つけたら、そこに座布団を敷いて「わが家のお茶席」を仕立てる。座布団の脇には、懐紙(ペーパーナプキンでも)に載せたコンビニの和菓子と、いれたての日本茶を載せたお盆を置く......。出かけるときには、訪問先への心尽くしの品をお気に入りの風呂敷で包む。汗ばむ陽気なら、小さな扇子をバッグに忍ばせておく......。

 知的生活研究所による本書『「和」を楽しむ美しい作法――読むだけで身につく絵解き版』(青春文庫)は、「いつもの暮らしが素敵に変わる大人のマナー」を解説した一冊。文章を読んだだけではイメージしづらいことも、イラスト入りでスッと理解できる。

「和」の作法とは

 家族で食卓を囲み、手を合わせて言う「いただきます」。これは肉や魚、野菜などの生命をいただくこと、食事を整えてくれた人への感謝を表す。英語では表現できないと言われている。「いただきます」も、一日に何度も交し合う「おじぎ」の文化も、思いやりを尊ぶ「和」の心を示すものであり、こうした「和」の心を表す所作が「和」の作法だという。

 たとえば「不祝儀では袱紗を左手で開く」「足を崩すときは出口方面に」など、そこまで細かいのか......と思うが、「弔事という常ならぬ気持ちを表す」「上座に足を向けないようにして敬意を示す」など、一つひとつに理由があるという。

 「和の作法は、日本人のこころを形にしたものです。四季を愛で、人を尊び、礼を重んじ、奥ゆかしさを忘れない......せっかく日本に生まれたのですから、暮らしに取り入れ、楽しんでみませんか?」

「食べる姿は人柄を表す」

 本書の目次は以下のとおり。

「第1章 着物のたしなみ」
 自分で着物を着る、着物の格とふさわしい場 ほか
「第2章 立ち振る舞いのおさらい」
 座布団の座り方・降り方、椅子にかける・椅子から立つ ほか
「第3章 喫食の行儀」
 食卓を美しく整える配膳のルール、人柄を語る箸の扱い方、お抹茶をいただく ほか
「第4章 社交の心得」
 結婚式に参列する、袱紗の扱い方、贈答品を風呂敷に包む ほか

 日本人としては一冊丸ごと身につけておきたいところだが、実際は着物に縁遠い人も多いだろう。あくまで自分の日常生活に当てはめて、知らないと恥をかくところにしぼるのがよさそうだ。ここでは、多くの人が意外と知らないと思われる「喫食」の作法を紹介しよう。食事関連は、家庭によってやり方もいろいろありそうなものだが、実は次のようなルールがある。

 まず、「食卓を美しく整える配膳のルール」から。ごはんとお汁の場合、ご飯を左、お汁を右。箸は手前、箸の先は左向きに置く。一汁三菜の場合、メインとなる料理、刺身、焼き物、揚げ物は右上。煮物、和え物は左上。香の物は真ん中に置く。ちなみに洋食の場合、ディナー皿を中心に、ナイフは右、フォークは左、使う順に外側から。ワイングラスや水のグラスは、ディナー皿の右上。サラダ皿は左上に置く。

 次に、「人柄を語る箸の扱い方」から。箸には格式があるという。最も格式が高い「正式の箸」は、両端が細く削られた「柳箸」。「一方を神が、一方を人が使う」考え方から「人と神との橋渡しをする」意味があるという。次の「略式の箸」は、意外にも割り箸、塗り箸の順。日本ならではの「穢(けがれ)を嫌う」考え方から、一度使って破棄する割り箸は清潔であり、何度も洗って使う塗り箸より格上とされるという。

 箸にはいろいろな作法があるが、なかでも要注意なのが「嫌い箸」としている。「無作法なので避けるように」と、名をつけられたものが一覧になっている。呼び名まで知らなかったが、やった覚えのある「〇〇箸」が結構あった。たとえば、器の上に箸を渡す「渡し箸」。これには「もういりません」の意味が。食事途中の箸は、箸置きに置くのがルールという。

 「食べる姿は人柄を表すとも言います。作法にのっとった振る舞いであることはもちろん、『食』への感謝の気持ちも添えて」

風呂敷は「融通無碍」

 最後に一つ、風呂敷にふれておこう。風呂敷の歴史は古く、奈良から平安時代にまで遡るという。風呂敷は「融通無碍」で、さまざまな形のものを包むことができる。基本は「お使い包み」(菓子折りなど、一般的な贈答のとき)と「隠し包み」(結婚のお祝い事に最適、結び目を隠すエレガントな包み方)の2種。このほか、瓶包みやスイカ包みなどもある。

 風呂敷は物を包むための昔ながらの道具という認識しかなく、評者は特に関心を持ったことがなかったが、最近は防災グッズ、エコバッグとしても注目されているようだ。日除け、雨除け、敷物、タオルケット、リュックにもなる防災グッズ。結び方次第でさまざまな型にアレンジできるエコバッグ。こうして見ると、風呂敷は一枚で何役もこなす優秀な「和」の文化だと気づく。現代人こそぜひ生活に取り入れたい逸品。気づいていないだけで、「和」の楽しみ方は身近にいろいろありそうだ。

 「この本が、和の暮らしを楽しみ、美しい所作を身につけ、日本の良さを再発見するきっかけになれば嬉しいです」

 著者の知的生活研究所は「ごく普通の人々のごく普通の生活における過ごしやすさ」をテーマに、知的追求を重ねる暮らしバックアップ集団。本書は『大人のマナー 和の作法便利帳』(2004年)を再構成、改題し、文庫化したもの。



 
  • 書名 「和」を楽しむ美しい作法
  • サブタイトル読むだけで身につく絵解き版
  • 監修・編集・著者名知的生活研究所 著
  • 出版社名株式会社青春出版社
  • 出版年月日2020年7月20日
  • 定価本体800円+税
  • 判型・ページ数文庫判・192ページ
  • ISBN9784413097598
 

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