運動神経は遺伝だから、どうあがいても仕方がない......。そうあきらめている人は多いだろう。しかし、本書『わが子の運動神経がどんどんよくなる本』(学研プラス)によると、そうとも限らないようだ。著者の遠山健太さんは、スポーツトレーナー。子どもの運動神経は遊びや子育てのなかで育つもの、環境しだいでぐんぐん伸びるもの、としている。
「運動オンチは遺伝しません。育つ環境によるものです。環境を整えるための努力を少しだけ、お母さん、お父さんにしてもらえたら、うれしく思います」
遠山さんは1974年米国ニューヨーク州生まれ、台湾で育つ。ワシントン州立大学教育学部初等教育学科卒。株式会社ウィンゲート代表。本書は『ママだからできる 運動神経がどんどんよくなる子育ての本』(2014年)を現在(2020年4月)の状況にあわせて加筆・修正したもの。
遠山さんはスポーツ科学の知識をベースに、アスリートがケガなく競技力を上げるトレーニングの計画・指導、一般向けに健康維持・増進のための運動指導を行っている。また、全日本モーグルチームのフィジカルコーチを経て、現在、競技者数が増えることがオリンピックのメダル数を増やすことにつながると考え、スポーツの適性診断、ジュニアアスリート育成システムの研究・指導の分野でも活動している。
冒頭、子どもの健康と体について驚くべきことを書いている。小学生が「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」予備軍になるケースもあるほど、子どもの運動不足や体力低下が深刻化しているというのだ。小学校の先生から相談を受けるようになり、自分の体の動きや体力に興味のない子が増えている現状がわかってきたという。
かかとを床につけたまましゃがめない、五十肩のように腕が上がらないなど、体が硬い子が増えている。また、転倒したときに受け身がとれず、前歯が折れたり鼻骨骨折をしたりする子が増えているとする研究報告もあるという。
「大人が意識してあげないと、間違いなく、子どもは運動不足になってしまいます」
「たくさん外遊びをしてあげるのはもちろんですが、日常生活のなかでも活動量を増やす習慣づけが大切です」
そもそも運動神経とはなにか。「神経」とつくだけあって、脳の働きが大きく関係しているという。たとえば「投げる」という動きの場合、脳から出た指令が、ニューロン(神経細胞)からニューロンへと、その間のシナプス(接合部)を介して、脳から脊髄、末しょう神経、筋肉と電気信号を伝える。この回路が、いわゆる「運動神経」。「投げる」「走る」「跳ぶ」「蹴る」などの動きを「経験」するたびに、回路がつくられていく。この回路のバリエーションが多いほうが、運動神経のいい子に育つという。
「さまざまな動きを『経験』できる『環境』を整えてあげれば、どんな子どもも運動神経はよくなるのです」
運動神経を育てるには「6歳までが肝心!」「神経系の発達が著しい幼児期は絶好のチャンス」としている。この時期の脳は、新しい機能を獲得したり機能を維持したりする能力が高く、この時期にいったん回路ができあがると、その機能が長持ちするという。たとえば、小さいころに自転車に乗れるようになれば、ブランクがあってもまたすぐに乗れる。「経験」して回路をつくっておいたことで、「脳と体が思い出してくれる」のだという。
本書は、毎日の生活や遊びのなかで手軽にできるトレーニングを紹介している。また、スポーツドクターの大内洋さんがコラムを担当し、子どもの体や運動について医学知識をもとに解説している。
第1章 運動オンチは遺伝しない! 育つ環境で決まります!
第2章 スポーツ大好き! 運動神経のよい子に育つ「基本動作」
第3章 実践編1 子育てのちょこっとサポートで運動神経を育む
第4章 実践編2 お手伝いのなかで、運動神経のベースづくり
第5章 実践編3 公園遊びで運動神経をぐんぐん伸ばす
第6章 対談 元気いっぱい スポーツ大好きっ子に育てよう!
「子どもの運動の基本は遊び。さまざまな『基本動作』を経験させよう」とある。子どもの動作発達研究の権威・ガラヒュー氏は84の「基本動作」を提唱しているが、遠山さんはそのうち24の「基本動作」を重視している。
■「移動系」の動き
走る、はう、降りる、跳ぶ(垂直方向に、水平方向に)、泳ぐ/潜る、追いかける、逃げる、かわす、のぼる、くぐる、着地する/飛び下りる
■「バランス系」の動き
渡る、ぶら下がる、浮く(水の中)、乗る(自転車)、回転する
■「操作系」の動き
打つ、投げる、捕る、掘る、押す、引く、蹴る/パントする(ボールを手から落とし、地面につく前に蹴る)
では、親はわが子の運動神経をよくする環境を整えるために、なにをしたらいいのだろうか。本書は、親子の触れ合い、家事のお手伝い、公園遊びなど、場面別にイラスト入りでトレーニングを紹介している。
このうち夏休みに実践したいと思ったのが、家事のお手伝い。「雑巾がけで全身の筋力を鍛え、股関節を柔軟に」「ほうきとちりとりを使って、左右で異なる動作の練習を」「玉ねぎの皮むきで集中力が養われる」など、いろいろある。
「お手伝いのいいところは、自分に与えられたミッションをやり遂げる責任感と、達成感を経験できる点。......失敗してもそこから学び、再びトライして乗り越えていく力が養われるでしょう。こういう心の強さは、スポーツに限らず人生のあらゆる場面で必要となるものです」
お手伝いには、複数の「基本動作」が組み合わさったもの、道具を操作するものがあり、「運動神経を養うのにはもってこい」なのだという。子どもの運動神経がよくなることは、そのまま心の成長につながるようだ。
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