読むべき本、見逃していない?

「ほったらかし保育園」がなぜ「奇跡の保育園」と呼ばれるのか?

  • 書名 92歳の現役保育士が伝えたい親子で幸せになる子育て
  • 監修・編集・著者名大川繁子 著
  • 出版社名実務教育出版
  • 出版年月日2019年9月11日
  • 定価本体1300円+税
  • 判型・ページ数四六判・208ページ
  • ISBN9784788914810

 92歳で保育士? そんな人がいるの? 本書『92歳の現役保育士が伝えたい親子で幸せになる子育て』(実務教育出版)のタイトルを見て、びっくりした。もちろん実際にいるから本になっている。現役保育士の最高齢に近い人であることは確かだろう。

モンテッソーリの教育とアドラー心理学

 著者の大川繁子さんは、栃木県足利市にある「小俣幼児生活団」の主任保育士だ。「生活団」というのは聞きなれないが、要するに認可保育園。0~5歳の子どもを預かっている。これまで60年近い保育士生活で2800人以上の卒園生を見送ってきたという。

 小俣幼児生活団の特徴は「モンテッソーリの教育とアドラー心理学の"いいとこどり"を実践」してきたことだという。

 「モンテッソーリ教育」とは障害者教育がルーツ。「自立した人間」を育てるための教育法だ。子どもがすべきことを、大人が一方的に決めたりしない。子どもが持つ能力を引き出すため、あくまでサポート役(援助)に徹する。最近では、将棋の藤井聡太七段も幼少時にこの教育を受けていたということで注目された。

 アドラーの心理学では大人と子どもを「対等」の立場に置く。叱ることも褒めることもよしとしない。ただただ子どもを認め、尊重する。

 いきなり「モンテッソーリの教育とアドラー心理学」が登場することで、小俣幼児生活団が凡百の保育園とは違うことだけは理解できる。「奇跡の保育園」ということで、全国から視察や見学が絶えないそうだ。

足利の旧家に嫁ぐ

 大川さんは東京の出身。実家は都内で二番目に大きい助産師や看護師などの派遣会社を経営していた。常時50人ぐらいの女性が住みこんでいたという。家にはガスも水道もあり、裕福な家庭。子どものころ、高名な舞踏家・石井漠さんの舞踏研究室に通っていたこともあった。戦争末期には、いったん東京女子大数学科に入学したというから、当時の女性の中では飛び抜けて高学歴だ。結婚で大学を中退して足利に移り住む。舅は医者。姑が戦後に保育園を始め、大川さんも手伝うようになる。

 嫁ぎ先は江戸時代からの家屋が残る旧家だった。姑からは「私が黒と言えば、それが白いものでもハイと言いなさい」と言い渡されたところから結婚生活がスタートする。

 保育園の敷地は3000坪もあった。池もあれば梅園もあり、園内を歩くだけで森林浴や自然観察ができる。環境自体が、都内の団地やマンションに付属する保育園とは段違いだ。

 やがて姑が亡くなり、いろいろな教育法を探る中でモンテッソーリの教育に出合う。京都のモンテッソーリ教師養成コースに園の保育士を毎年1人ずつ送り込み、7、8年後には全員が研修を終えた。アドラー心理学については、園長ポストを引き継いだ次男が学び、両者を融合させた教育ができるようになる。

 子どもたちが自由と責任を胸に、自立できるように働きかけるのが園の方針だ。0~4歳児の場合、「クラスみんなで同じことをする時間」はない。一人ひとりが自分のやりたいことをして過ごす。5歳児でも、一日1時間だけという。冗談で「ほったらかし保育園」と呼んでいるそうだ。

 広大な敷地と高邁な理論。それが合わさったのが小俣幼児生活団ということになる。妙なたとえで恐縮だが、鶏舎や牛舎で育てるのではなく、放し飼いで育つ家畜の逞しさを想像した。

90歳過ぎてもまだまだ勉強中

 本書は、「第1章 『自由に生きる力』を育てるために」「第2章 親が守りたいコミュニケーションの約束」「第3章 子どもが小さいうちに築きたい、幸せを育む三角形」「第4章 2800人を見てきた私の『子育てのコツ』」「第5章 「『お母さん』の人生について私が伝えたいこと」に分かれている。

 第1章では「スゴイ人より、めいっぱい自分の花を咲かせられる人」「どんなに小さな子にも、個性は立派にあらわれています」「危なくても、面倒くさくても、経験させてみる」「ヒントを出して、あとは『自分で考えてね』」など子育ての基本が述べられている。第2章では「言いたがらないときは、口をこじあけない」「信頼できない大人には、子どもは本音をしゃべらない」など。第4章ではQ&A形式で様々な問答が掲載され、第5章では「『妻』ではなく『嫁』として生きた私が反省していること」なども記されている。

 それにしてもどうして90歳を超えてまで保育の仕事を続けているのか。その答えは「自分としてはまだまだ勉強中のつもりだからです」。保育という仕事は奥が深くて、「もっともっと、と思っていたら、気がついたときは90歳を超えていた」という。「毎日、学びが尽きないのです」と語っている。

 大川さんは足利市の教育委員や女性問題懇話会の座長も務めたそうだ。確かに周囲が放っておかないだろう。本書は、保育の参考書というだけでなく、いかにして自分の人生を充実させるかという高齢化社会の生き方テキストにもなっている。

 BOOKウォッチでは関連で『「考える力」を伸ばす』(集英社新書)、『経済学者、待機児童ゼロに挑む』(新潮社)、『おいしいとはどういうことか』 (幻冬舎新書)なども紹介している。

 

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