時代に関係なく「近ごろの若い者は...」とか「今どきの学生は...」など、年齢による未熟さを理由にした不作法批判があるようだが、社会が高齢化した現代では年配者の粗相が問題になることもしばしばだ。周囲を不快にさせる行為は年齢には関係がないのだ。さまざまなテーマに挑戦してきた脚本家、内館牧子さんは、不作法は、過剰なために不作法になるのだという。内館さんの最新刊『男の不作法』(幻冬舎)では、そうした不作法アルアルをまとめている。
列挙された「男の不作法」は30項目。内館さんだけがそう考えたのではなく、各年代、さまざまな職種の男女から聞いていて集めた失敗や経験をもとに論じたものだ。それだけに「上に弱く下に強い」とか「過剰に自慢話をする」など、ほとんどは、その内容を要約した小見出しを見ただけで「ある、ある」と、本論を読むことにカタルシスの期待が高まってくる。
だが、ほかの一部のもの、たとえば「薀蓄(うんちく)を傾ける」「妻や恋人以外の女性をほめる」などは、えっ?それが何か?―と思う人も多いのではなかろうか。「確かにある不作法に、すべての男性があてはまることはあり得ない」と内館さん。「百人いれば百通りだと思う」と述べる。
不作法とは思えない行為が不作法になるのは、それがしつこいときだ。「不作法の多くは、サラリと少しやる分には許されるものがある。だが、つい過剰にやる。ガッツリやる。だから嫌われる」と内館さん。本書を書き進めるうちにこう分かったという。「薀蓄」が不作法になる決定的機会は、相手が初対面の人や、それに近い人の場合―と指摘されると、確かに、それはアルアルだと思う。
内館さん自身は、初対面のメンバーを含むグループ旅行のときを例に挙げている。初対面の人物が旅行先に詳しく、自己紹介と早く打ち解けようとしたのか案内のレクチャーがいつまでも続き、その人物と距離をとって歩くようになったという。
過剰になるほど距離をとりたくなる行為として、ほかに挙げられているのは「自慢話」や「プライド」の強調、ダジャレや下ネタ、「『らしくなさ』の演出」などなど、過剰にならなくても不作法になりそうなものもあるが、やり過ぎるほど不快に感じる人は多くなるだろう。
「不作法」とマナーは必ずしも一致するものではないだろうが、食事に関連した行動、言動の指摘が少なからずある。「食べ方のマナーが悪い」というのは、内館さんが聞いた女性たちの多くが共通して挙げた不作法。なかでも「バイキング料理」で、お里が知れる行いが出るらしい。「好きなだけとって残す」「エビグラタンの横に麻婆豆腐」などを目の当たりにし、男として小さく見える、鈍すぎ―とうんざりした様子。もっとも、グラタンと麻婆豆腐の同時盛りについて内館さん自身は「何度も立って取りに行くより、これでいいという気持ちは分からないではない」と、不快感はなさそうだ。
バイキング不作法で、これはアルアルか。四十代女性の話。同伴の男性がテーブルの紙ナプキンにパンを包んでサッとカバンにしまい、こう言った。「母が好きなんだよ」。マナー違反はパンだけで終わらず小さいバターまでしまいこむ。マナーより言い訳にカチンときたのか女性は「こんなマザコン、冗談じゃない」と、男性とは二度と会うことはなかったという。
食事をめぐってはほかに、食材について精通していることを主張するつもりかコトあるごとにケチをつけるなど「『まずい』のタイミングをくめない」ことや「カッチリと割り勘にする」ことなどの不作法ぶりを指摘。また、それなりにフォーマルな食事会と分かっていながら「平服で...」という案内を勝手に解釈し、ドレスコードを無視して出席するというのはアルアルの類と思われるが、内館さんは自らの若いころの行動を反省しながら、愚行と断じている。
本書は『女の不作法』との二部作で、2冊同時発売。同書のあとがきによると、こちらは『男の――』の追いかけ企画として著者自身が提案して実現したものという。ところが「昔からさんざん不作法をやってきた」ことを振り返り「『天に唾する』に等しい」と、身の程知らずだったことを反省しているとか。「過去の恥」をさらす覚悟で挑んだという。
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