福岡県の糸島市をご存じだろうか。福岡市に隣接し、住みたいまちランキングにも入るまちだ。本書『地域も自分もガチで変える! 逆転人生の糸島ブランド戦略』(実務教育出版)は、ダメ町役場職員だった著者がいかにして「日本一のMBA公務員」になり、地域のブランド化に貢献するまでになったかを綴ったサクセスストーリーだ。全国の多くの地方公務員の参考になるだろう。
著者の岡祐輔さんは福岡県糸島市企画部経営戦略課の現役公務員。仕事をしながら放送大学を卒業後、九州大学大学院でMBAを取得。そこで学んだ知識、技術を活かして、さまざまな「糸島ブランド」づくりをやり遂げた。
本書の後半に岡さんがいかにして逆転人生に成功したか、自伝的な記述もあるが、まずはMBAのテキスト風に、地域ブランドづくりの要諦から始まる。章ごとのMBAミニ講座を参考にすれば、地域なりの戦術も見えてくるだろう。
糸島市は3つの市町が合併して誕生した人口約10万人のまちだ。年間680万人の観光客が訪れ、移住者も増えている。
2016年に九州大学ビジネススクールを卒業した岡さんは、市役所に戻り、シティセールス課ブランド推進係に配属された。まず、時間、地域、人口統計、行動、心理という5つのセグメントで地域を分析した。その結果、漁業者が増えていること、なかでもカキ養殖猟師が増えていることが分かった。「食」を柱に産業をつくるという方針が見えた。
販路開拓のために組む相手はマーケティング教育に熱心な博多の女子高校とした。あえて地元の高校を選択しなかった。最初の商材は「糸島産ふともずく」。高校の授業では2年生で商品開発をし、3年生で販売するというサイクル。高校生たちは催事にも参加、熱心にPRにもつとめた。「フード・アクション・ニッポン アワード」では、「ローソン賞」を受賞、地元でもあまりしられなかったものが、東京、九州のローソンでサラダとスープになって発売された。
第2弾は天然真鯛を使った出汁、第3弾は糸島産のメンマを使った油菓子「博多BARIMEN(バリメン)」だった。
こうしたストーリーで以下の章が展開する。
第1章 観光と移住でまちが変わった糸島 第2章 糸島の地方創生の謎に迫った 第3章 地方創生大臣賞「糸島マーケティングモデル」が始まった 第4章 糸島ファームtoテーブルは戦略立案だった 第5章 地方創生の鍵は民間モデルをつくること 第6章 苦しいときに粘ると仲間ができた新駅の話 第7章 ダメ公務員の僕は、日本一のMBA公務員になった 第8章 公務員としてのモチベーションを上げる
市外の高校と提携したことで、批判も受けたという。しかし、「これから発展していくまちは、外にファンをつくらないといけない。だって地元の人口は減るんだから。外のパートナーが増えるということはそれだけ自分たちの持つ資源が増えるということ。知識、技術、情報、お金などさまざまなものが外に広がります」と外との連携を強調している。
糸島市には、ちょうど九州大学の新しいキャンパスが移転してきた。富士通研究所も部門をつくり、九州大学の一機関として研究を始めた。糸島市と九州大学、富士通研究所でつくったAIを使った移住マッチングシステムも紹介している。糸島市は直接的な予算をかけずに参加した。ランニングコストが高額になるため、糸島市での実用化は見送られたが、いつか実装したいという。
「自治体職員は待っていたら損! 政策チャンスが待っている」と呼びかけている。
糸島版マーケティングモデルは、内閣府が主催する「地方創生☆政策アイデアコンテスト」で、全国一般の部で最優秀賞に選ばれた。「MBAだからできるんでしょう」という見方に対して、岡さんは自らの経歴を書いて反論している。
佐賀県唐津市の地元高校を卒業し、医者を志望したが、2浪の末に歯科大学に入学。モチベーションが続かず、隣の福岡県糸島郡二丈町役場(現糸島市)を受験し、採用された。クレームの電話などにうまく対応が出来ず、「全然窓口がわかっていない生活環境課、若い男性職員。税金の無駄」と投稿され、そのまま公表資料に記載され、相当落ち込んだという。
辞めようと思ったのを助けてくれた上司や先輩がいた。まわりは大卒ばかり。コンプレックスを持った岡さんは、九州大学のビジネススクールに入りたいと思ったが、大卒しか入れないことに気がついた。そこで通信制の放送大学に入り、ビジネススクールの受験資格を得て、ようやくビジネススクールに入学した。
MBAで学んだ分析の手法は、本業のブランド戦略に相当役立ったようだ。本書は重要な箇所に青でマーカーが引かれていて、受験参考書風でもある。忙しい人は斜め読みしても、ポイントをつかむことが出来るだろう。少し、やる気を失っている地方公務員を元気づける本として一読を勧めたい。
BOOKウォッチでは、公務員関連として、『公務員のカスハラ対応術』(学陽書房)、『絶対に人に見せてはいけない日野市の職員手帳』(東邦出版)などを紹介済みだ。
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