日野市と聞いてもどこにあるのか知らない人が多いだろう。東京の多摩地域、立川と八王子の間にあると言えばわかるだろうか。しかし、東京都民の間でも正直、あまり知名度は高くない。日野の魅力を発信するには、まず日野市職員がワクワクしていなければならない、ということで作った職員手帳が反響を呼び、書籍化された。それが本書『絶対に人に見せてはいけない日野市の職員手帳』(東邦出版)である。
作られた経緯は後で説明するとして、こんな構成だ。「日野初心者」「意識高い系」「苦情&お叱り日野メンター」「日野市職員」「家族・友人」それぞれからの質問に答えるQ&A集になっている。
たとえば、「日野市って、どこにあるの?」という問いには「東京のど真ん中ですよ。横綱のごとく、デンと構えている日野。太刀持ちは八王子くんに、露払いは立川くんに任せています」。確かに地図を見ると、東京都の中央に位置している。
「日野といえば?」という質問には「トントントントン?――ヒノノニトン! それがあるとこ」。東京都の自治体では年間製造品出荷額などで1位、2位を争うほど工業が盛んなまちでもある。
日野出身の有名人には新選組の土方歳三がいる。日野には新選組の資料が数多くのこっているそうだ。新選組のふるさと歴史館、土方歳三の菩提寺で関東三大不動の高幡不動尊もある。
職員からの質問に対しては先輩からのアドバイスも。「仕事、辞めようと思うんですけど」という質問には、「3年だけ、待って。どこにでも合わない人はいるもの。でも、3年くらい我慢すれば職場の環境が変わっていくのが日野市の良いところ! 石の上にも三年です!」と励ましている。
職員のデータ集には興味深い数字もある。出身大学人数上位11校では、中央大学が75人でダントツだ。次いで法政大学、日本大学、明治大学、明星大学、早稲田大学、東京学芸大学......となっている。中央大学の本部と文系学部のある多摩キャンパスが日野市にあると言いたいところだが、実際はギリギリの境目で八王子市にある。でも日野市に住んでいる中央大生は多い。そんな関係だろうか。
86ページの手帳本体の後ろに書籍化にあたっての解説が付いている。日野市にある実践女子大学生活科学部の須賀由紀子教授が経緯を説明している。
ある住宅情報誌の「住みたいまちランキング」で、日野市は106位とまさかの100位圏外だった。関東で30位には入っていると思っていた職員たちには衝撃だった。そこでプロジェクトチームが立ち上がった。
大坪冬彦市長は「日野の魅力発見職員プロジェクト」として議会に予算案を提出。「一体、何をやるのですか?」という不安と不信の目に満ちた議員には、「日野のアイデアブックを作ります」と説明し、ネタバレしないようにしたという。
さらに全職員に参加してもらうためアンケートは、デジタル化される前に最後の配布となった、ボーナスの給与明細に「招待状」として封入する奇策に出た。600近い回答が集まった。「とことん汗をかきながら、笑顔も忘れず、真剣にふざけました」と書いている。
「本手帳を許可なく第三者に見せてはならない」 「愛する家族、信頼のおける友人、よきライバルには『ここぞ』というときにだけ本手帳をチラ見せ、自慢しても良いこととする」
そうした「使用上の注意」を付けて発行したところ、多くのメディアに取り上げられ、大坪市長は日野市のPRとしても十分すぎるほど費用対効果があり、職員の意識を刺激することができた、としている。
須賀教授は、職員が主体的にかかわった「作り手のワクワク感」を成功の要因の一つに挙げている。
プロジェクトのメンバーたちは「税金を使ってふざけたものをつくって」など苦情の嵐で市役所の電話が鳴り止まないことも想像していたという。「何で日野市に住まないの?」などの没ネタがあったことも明かしている。
イラストやデザインも秀逸で、これならチラ見せしたくなるだろう。人口減の日本にあって、今後は自治体間のゼロサムゲームになっていくだろう。ほかの自治体の参考になりそうな一冊だ。
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