読むべき本、見逃していない?

97歳の老人が「永久に、極秘のこと」を明かす理由

  • 書名 証言 沖縄スパイ戦史
  • 監修・編集・著者名三上智恵 著
  • 出版社名集英社
  • 出版年月日2020年2月17日
  • 定価本体1700円+税
  • 判型・ページ数新書判・752ページ
  • ISBN9784087211115

 2018年に公開されたドキュメンタリー映画「沖縄スパイ戦史」は、文化庁映画賞、キネマ旬報文化映画部門ベストワンなど8つの賞を受賞した。大手マスコミもこぞって好意的に取り上げた。この作品をつくった映画監督の三上智恵さんが、同じテーマを書籍としてまとめたのが、本書『証言 沖縄スパイ戦史』 (集英社新書)だ。新書本で750ページを超える超大作。映画完成後にさらに再取材するなどして内容を充実させたという。活字の記録として後世に残すことにこだわったのだろう。いくつかの新事実も加えられ、完成度の高いものになっている。

2時間に及ぶ大画面の映像

 映画「沖縄スパイ戦史」は太平洋戦争末期の沖縄戦がテーマだった。米軍と日本軍の軍隊同士の戦いの陰で、沖縄の子どもたちも「兵士」に仕立て上げられ、ゲリラ戦に動員されていた。14~17歳の1000人近くが「護郷隊」に召集され162人が亡くなったとされる。指導していたのは42人の中野学校出身者たちだ。沖縄の本島や離島で秘密裏にいろいろな工作をやっていた。映画でその実相が暴かれていた。

 「国士隊」のことも出ていた。土地の有力者たちを巻き込んだ住民監視組織だ。「スパイ」の疑いがある住民を密告し、軍による処刑に協力する形となった。小さな村では、今も誰の密告で誰が殺されたかわかっているという。

 さらに八重山諸島におけるマラリア被害にもスポットを当てていた。波照間島では、中野学校出身者による命令で、住民が西表島のマラリア多発地域に移住させられ、そこで当時の島民の3分の1近い約500人が亡くなった。映画の中では、この強制移住を命じた中野学校出身者に戦後、沖縄戦の研究者が電話取材した録音テープが紹介されていた。まったく罪の意識がない話しぶりだった。

 評者も公開時にこの映画を見たが、「地上戦」で自分が住んでいる町や村が戦場になるというのがどれほど凄惨なことなのか、「総力戦」とはどんな後遺症を残すのか、先の戦争で沖縄はどれだけの犠牲を強いられたのか、なぜ沖縄では反戦意識が強いのか、それらがいやというほどわかる作品だった。

 類似のドキュメンタリーはNHKスペシャル取材班が15年に制作した「あの日、僕らは戦場で~少年兵の告白~」があり、すでに16年に『僕は少年ゲリラ兵だった――陸軍中野学校が作った沖縄秘密部隊』(新潮社)という単行本になっている。その取材に協力した名護市の市史編さん係嘱託職員の川満彰さんも18年になって『陸軍中野学校と沖縄戦』(吉川弘文館)を出版した。J-CASTのBOOKウォッチでは両書とも紹介済みだ。

 いろいろと沖縄戦がらみの秘史を明かす試みが続いているが、中でも映画「沖縄スパイ戦史」は、2時間に及ぶ大画面の映像ということもあり、インパクトが強烈だった。

21人の元少年ゲリラ兵が登場

 三上さんは1964年生まれ。小学生のころから広島・長崎の原爆や、戦争関係の本を読み漁るような子どもだったという。毎日放送を経て、琉球朝日放送ではディレクターとして多数の硬派作品に関わり、石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞、テレメンタリー年間最優秀賞、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞などを受賞している。のちフリーになり、映画作品「標的の村」(2013年公開)で山形国際ドキュメンタリー映画祭市民賞および日本映画監督協会賞など受賞。「沖縄スパイ戦史」は4作目。10年がかりで取材してきたという。本書は以下の構成。

 第1章 少年ゲリラ兵たちの証言
 第2章 陸軍中野学校卒の護郷隊隊長たち
 第3章 国土防衛隊 陸軍中野学校宇治分校
 第4章 スパイ虐殺の証言
 第5章 虐殺者たちの肖像
 第6章 戦争マニュアルから浮かび上がる秘密戦の狂気

 第1章では21人の元少年ゲリラ兵が登場する。映画では紹介しきれなかった人も登場する。それぞれ実名と写真、プロフィール入り。ロングインタビューで当時のことを語っている。身内にもほとんど話さなかったような内容が多い。いかに三上さんが丁寧な取材で信頼を得ていたかがわかる。一人で100人の米兵を射殺したという元少年兵もいる。あるいは戦後、PTSDで苦しんだ人も。なぜ彼らが戦ったのか、狭い地域社会にどんな傷を残したか、などが改めて鮮明に浮かび上がる。

本土決戦でも「ゲリラ」構想

 本書で特に目を引くのは、本土内でもゲリラ戦を準備していた中野学校関係者の証言だ。沖縄で住民を巻き込んだようなゲリラ戦を、日本軍が本土決戦を想定して構想していたことは一部で知られてはいる。しかし、実行される前に終戦となり、どんな準備や訓練をしていたのかについては、よくわかっていなかった。

 今回の新書では、岐阜県に住む野原正孝さんが取材に応じ、かなり詳しく語っている。野原さんは1922年生まれ。20歳の時に徴用され陸軍に。ある日、中野学校行きを命じられて分校で特殊訓練を積む。任務は極秘だったが、最後に明かされた。国土を守る防衛隊が地域に編成されるから、そこへ行って教官をしろというのだ。

 そして地元に帰り、14歳から40歳までの男子200~300人を集めて、一回に70~80人にゲリラの訓練をした。本書には参加した当時15歳の少年の話も出ている。本土に上陸した敵機動部隊を、身をもって止める。自分で爆弾を抱えて死ぬ訓練だ。

 野原さんは「地域の中でこんな若い人間も召集されて、戦闘に携わるようになったんだということは、言い残しておきたかった」と語っている。「ホントは、永久に、これは極秘のこと」だったが、最近、自分の身体が言うことを聞かなくなり、話しておこうと考えるようになったという。

 「勝つためには何でもいい、というのが当時の感覚やったでね。それが教育の恐ろしさですよ」

 野原さんのことを三上さんに紹介したのは、岐阜新聞の女性記者だ。三上さんの映画を見て岐阜にいる関係者を知っていると連絡があった。映画が現代史の広域的な掘り起こしに貢献した。

軍隊は国民を守らない

 野原さんは「住民は、一つの兵器に過ぎなかった」とも語っている。三上さんが沖縄戦にこだわる大きな理由だ。「軍隊は国民を守らない」。三上さんは旧日本軍と現在の自衛隊は連続性があると考えている。近年、石垣島、宮古島などで自衛隊の基地が新たに作られているが、住民投票運動が始まると、誰が賛成し、反対しているのか、自衛隊によって情報収集活動が行われているという。

 三上さんはもともと、住民サイドから沖縄戦のことを考えていた。しかし、長く取材するうちに、中野学校卒業生に課せられた「秘密戦」の全貌が見えるようになってきた。正規軍の衝突と並行して行われる裏の戦争。なぜ軍隊は住民を守るどころか利用し、かつ見捨てるのか。遊撃戦のマニュアルをみれば、戦争マラリアも強制集団死も住民虐殺も、全部起こるべくして起こったことだと理解できたという。

 その狂ったシステムの中で、加害者側になった人々の置かれた状況や当時の心の動きもとことん知りたいと思うようになり、調べた。「一人ひとりの個人史がわかってくると、やはり見え方は変わってくる」。終わってみれば、本書は新書にもかかわらず、縦置きにすると机の上に立つボリュームになってしまったと振り返っている。「第4章 スパイ虐殺の証言」「第5章 虐殺者たちの肖像」など強烈な内容だ。

 「護郷隊」を組織した中野学校出身の村上隊長は生き残った。しかし、戦後は死ぬまで一貫して沖縄での慰霊祭に通い続けた。息子や娘さんも数えきれないほど島を訪れた。2019年には、孫娘にあたる人が5・15平和行進に参加していたと聞いて少なからず驚いたという。沖縄での裏工作に関わった人たちの戦後も含めて、総合的、複眼的に総覧しているところが本書の大きな意義だろう。

 映画「沖縄スパイ戦史」の共同監督だった大矢英代さん(元琉球朝日放送記者)は今回の新書には加わっていない。映画で担当していた八重山のマラリア問題を掘り下げた『沖縄「戦争マラリア」――強制疎開死3600人の真相に迫る』(あけび書房)を2月に刊行している。

 BOOKウォッチでは関連で、沖縄返還交渉の密約を扱った『記者と国家』(岩波書店)、沖縄で散った無数の命への思いを込めて直木賞を受賞した小説『宝島』(講談社)、在日米軍への特別待遇を問題視する『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(創元社)、自衛隊の知られざる組織に迫った『自衛隊の闇組織――秘密情報部隊「別班」の正体』(講談社現代新書)なども紹介している。

 

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