読むべき本、見逃していない?

もしも、米軍のオスプレイが東大に墜落したら・・・

  • 書名 本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」
  • 監修・編集・著者名前泊博盛 編著、明田川融・石山永一郎・矢部宏治 著
  • 出版社名創元社
  • 出版年月日2013年2月28日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・397ページ
  • ISBN9784422300528

 新聞の書籍広告でたまたま見かけた。本書『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(創元社)。全国紙の一面の下だから、出版元も力が入っている。新刊かと思ったら、2013年の出版だった。もう7刷だという。

 旧刊をなぜ宣伝しているのか。アマゾンをチェックして、理由が何となくわかった気がした。地味なタイトルにもかかわらず、本書には100件近い読者コメントが付いている。星の数も多い。評価が高く、ロングセラーになっているようなのだ。

架空のシミュレーションといえない

 編著者の前泊博盛さんは1960年生まれ。琉球新報の論説委員長を経て、沖縄国際大学大学院教授。記者時代には、外務省機密文書のスクープと日米地位協定改定キャンペーン記事で石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞している。『沖縄と米軍基地』(角川書店)などの著書もある。共著者はいずれも沖縄問題に詳しい学者やジャーナリストだ。

 本書は17問の「Q&A」形式で解説が進む。Q1「日米地位協定って何ですか」。Q2「いつ、どのようにして結ばれたのですか」。Q3「具体的に何が問題なのですか」・・・。

 「日米地位協定」は在日米軍が、沖縄などで事件を起こしたときにスポットが当たる。米軍に関しては、日本政府の権能、すなわち日本国憲法が及ばないようなことがいろいろあるといわれているからだ。

 近くに米軍基地がない本土の一般国民にとっては、何となく他人事のような感もある。そのあたりも踏まえて、本書は強烈な設問をぶち上げる。それがQ5「東京大学にオスプレイが墜落したら、どうなるのですか?」

 その答えは「安田講堂に激突、炎上して破片が広範囲に飛び散ったとき、米兵は正門や赤門を封鎖して、警視総監の立ち入りを拒否することができます」。

 これが架空のシミュレーションといえないところが恐ろしい。実はすでに類似の事故が沖縄で起きているのだ。2004年8月13日、沖縄国際大学の本館ビルに、米軍のCH53D大型ヘリが墜落、爆発炎上した。直ちに隣接する米軍普天間基地から数十人の米兵が大学になだれ込み、事故現場を封鎖、日本人を追い出した。米兵たちは沖縄県警の警察官を現場に入れることも拒んだ。「植民地同然の光景」が展開されたという。

「日米密約」の存在

 さすがにヒドイということで、沖縄国際大の事故のあと、日米合同委員会で新たなガイドラインがつくられた。墜落事故が起きたときは、①内側の規制ラインは日米共同で管理②外側の規制ラインは日本側が管理③事故機の残がいと部品は米側が管理――というもの。何となく日米共同で対応するように見えるが、実際に残がいに触れられるのは米側だけ。本書によれば、日本国内で起きた事故にもかかわらず、基本的に米軍の指揮下に置かれ、日本側は米軍に従わなければならない。残がいが飛散すればさらに米軍の管理エリアは拡大するだろう。これが「日米地位協定」のもとでの現実、というわけだ。

 よく知られているように、面積では日本の中の0.6%に過ぎない沖縄に74%の米軍基地が集中している。しかし、首都圏を見回して横田、厚木、座間、横須賀と米軍基地は数多い。

 そもそも日本にいま何人の米軍人がいるのか。それすら日本政府は把握することができないのだという。なぜなら、地位協定によって、米軍人はパスポートやビザの適用から除外されている。本書によれば、軍用機で来日した後、フェンスの外に出るときに出入国検査がないそうだ。そうなのか、とちょっとびっくり。

 そしてしばしば問題になる米軍人の犯罪。起訴率が低いのだ。法務省検察統計(2008年)によると、2001年から08年までの日本人の起訴は48.6%、米兵は17.3%。どの犯罪でも低いが、とくに脅迫、詐欺、恐喝などの起訴率は0%。本書は、「日本にとっていちじるしく重要と考えられる事件以外は、裁判権を行使しない」という「日米密約」があるからだ、と指摘している。

日米関係を「属国・宗主国」と見る

 前泊さんによれば、日米地位協定とは、「アメリカが占領期と同じように日本に軍隊を配備し続けるためのとり決め」。1952年のサンフランシスコ講和条約締結時に、日米安保条約と、「地位協定」の前身にあたる「日米行政協定」も発効した。講和条約や安保条約には書き込めない、最も属国的な条項を押し込むための「秘密の了解」、それこそが「日米行政協定」だったという。

 本書には「PART2」として「外交機密文書『日米地位協定』の考え方」、資料編「『日米地位協定』全文と解説」も付いている。より詳しく知りたい人には参考になる。

 前泊さんは日米関係を「属国・宗主国」とみなし、それを支える文書によるとり決めが日米地位協定だと強調する。そして、日米間のとり決めである以上、そのくびきの下にあるのは沖縄だけでなく日本全国共通だと指摘する。

 このあたりを読んでいて、最近話題の『国体論―菊と星条旗』(集英社新書)のことを思い浮かべた。著者の思想史家、白井聡さんによれば、今や日本の「国体」は天皇からアメリカにすり替わってしまったという刺激的な内容だ。昭和から平成に移り、さらに令和になって、天皇の存在がマイルドになればなるほど、「アメリカ」の存在感が高まっているということだろう。安倍政権のアメリカに対する挙措を見ても、たしかになんとなくそんな気がする。

 まもなく、またトランプ大統領が来日する。前回17年は横田基地から入国した。本書を読むと、これも地位協定ゆえか?と思ってしまう。今回はどうなるのだろう。改めて日米関係を覚めた目で観察していく必要がありそうだ。

 本欄では関連で『沖縄から問う東アジア共同体――「軍事のかなめ」から「平和のかなめ」へ』(花伝社)、『宝島』(講談社)、『はじめての沖縄』(新曜社)、『天皇陛下の味方です――国体としての天皇リベラリズム』(バジリコ)なども紹介している。

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