長期化する安倍政権で、最大級の悩みは「沖縄」だろう。森友・加計問題や、閣僚の失言・辞職などにもかかわらず、全国的にはそれなりの支持率をキープしているのに、「沖縄」だけは思うように牛耳ることができない。知事選や衆院補選で「反安倍」勢力が推す候補が、政権側が推す候補に大差をつけて当選し続けている。米国とのお約束、名護市辺野古の米軍新基地建設がスムーズに進まない。安倍政権から見れば、沖縄はまさに「獅子身中の虫」、苦虫をかみしめているに違いない。
本書『沖縄から問う東アジア共同体――「軍事のかなめ」から「平和のかなめ」へ』(花伝社)は、2018年度に鹿児島大学で開催されたワンアジア財団寄付講座「東アジア共同体と沖縄の視座」をまとめたものだ。木村朗・鹿児島大学教授による編著。アジア地域が再び戦火でおおわれることがないようにするためにいま何が求められているのか、日本と沖縄はどのような位置・役割をはたすべきなのかを考察したものだ。
「東アジアの平和と共生のカギは、沖縄にある!」「その歴史と文化と豊かな自然から、沖縄は東アジア地域における平和創造の拠点となる可能性を秘めている」と力を込めている。
18人の識者による論考が掲載されている。「トランプ以後の世界はどこに行くのか 」(進藤榮一・筑波大学名誉教授、国際アジア共同体学会代表)、「東アジア共同体と韓国──『ミドルパワー外交』の視点から(李鍾元・早稲田大学教授)などの論者は、大手マスコミに出る機会の多い人であり、良く知られている。「琉球独立と東アジア共同体への展望 」の松島泰勝・龍谷大学教授は、『琉球独立論』(バジリコ)で話題になった人だ。他の登場人物は、「脱 大日本主義」を論じた鳩山友紀夫・元首相(東アジア共同体研究所理事長)をのぞけば、失礼ながら初めてお名前を拝見した人ばかり。
なぜかと言うと、本書は「東アジア共同体」をキーワードにしているので、中国や韓国の研究者がたくさん名を連ねているのだ。「沖縄アイデンティティの形成と変遷」は林泉忠・武漢大学教授、「属国論 マーク2」はガバン・マコーマック・オーストラリア国立大学教授、「東アジア平和の課題」は金哲・安徽三聯学院教授、「歴史認識における差異と和解への道」は李若愚・四川大学歴史学部准教授と張博・河南大学日本語学科准教授、「啐啄同時の朝鮮半島と新しい東アジア」は韓洪九・聖公会大学教授という具合だ。それぞれのバックボーンがイマイチわからないので、紹介が難しい。
そのなかではやはり鳩山・元首相のくだりが興味深かった。「私がなぜ辺野古に固執するのか、どうして辺野古新基地建設に反対し続けているのかというと、そのことによって総理を辞めた人間だからです」「これはアメリカの圧力というよりも、アメリカの威を借りたキツネのような官僚たちが、当初から私の意に反して、辺野古ありきでしか動かなかったのが原因のようです」と語っている。
さらに詳しくは本書を読んでいただくとして、この寄付講座の勧進元「ワンアジア財団」とはいかなる団体なのか。本書では特に説明がなかった。そこで財団のホームページを見ると、09年設立。大学でのアジア共同体論の講座開設に対する助成を主な活動としているようだ。基本財産が約100億円というから半端ではない。せっかくの機会でもあり、できれば本書内で詳しい説明がほしかった。
沖縄関連で本欄では『宝島』(講談社)、『ドナルド・キーン自伝 』(中公文庫)、『はじめての沖縄』(新曜社)、『陸軍中野学校と沖縄戦』(吉川弘文館)、『青い眼の琉球往来』(芙蓉書房出版)、『沖縄からの本土爆撃』(吉川弘文館)なども紹介している。
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