なんともすごい才能が出たものだ。本書『探偵はぼっちじゃない』(株式会社KADOKAWA)は、第21回ボイルドエッグズ新人賞受賞作品。著者の坪田侑也さんが慶應義塾普通部3年の時に書いたもので、現在慶應義塾高校2年生。
この小説の主人公、緑川光毅も中学3年生だ。受験を控え気が重いが、それなりに学校生活を謳歌していたが、満たされない思いがあった。そんな時に同級生の星野温が「一緒に探偵小説を書こう」と声をかけてきた。
一方、新任教師の原口は、理事長の息子である自分の立場を持てあましながらも「よき教師」であろうと奮闘していた。ある日自殺サイトに生徒の一人が出入りしていることを知り、それが誰であるか突き止めようとするが......。
緑川と原口の視点で交互に作品は進行する。タイムラプス、微速度撮影で撮られたコマ送りの動画など、スマホが重要な道具として登場する。このあたりは現役の中学生、高校生でないと分からない感覚だ。
文体も平易で分かりやすいし、登場人物の心理や動機も中学生なら理解できるだろう。生徒と教師、二人が追い求める「謎」がひとつになったとき、最高の物語が生まれる。
小説にしては珍しい著者の「あとがき」が載っている。「将来、作家になったら。 小学生の頃、よくそんな冒頭で始まる妄想をしていたように思う」と書き出している。
小学生の頃、児童向けの推理小説を読み、自分でも書いたが、原稿用紙の4分の1が埋まっただけのストーリーがどんどん増えるだけだったという。そして中学校に入り、夏休みの自由研究で小説を書くようになった。「中学生」「小説を書く」「夏」という3題は、まさに本書のテーマでもある。
賞に応募する気はなく、自己満足に終わるはずだった作品は、友人に流されて投稿してしまうことになったという。なるほど、そのせいで若者の小説にありがちな、妙な気どりがない訳だ。
SNSやスマホを当たり前のように使いこなす中学生。彼らではなければ書けない世界が確かに存在する。こうして表現はどんどん日常のものとなり、新しい才能が生まれていくのだろう。だとしたら、ネット社会にも大きな意味があるというものだ。
本欄では関連で中学生作家、鈴木るりかさんの『さよなら、田中さん』(小学館)も紹介している。
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