読めば賢くなる。それを「売り」にしている本は少なくない。本当にどれだけ賢くなるのか? 本書『はじめまして、法学』(ウェッジ)が類書と違うのは、数値目標を明示していることだ。読者の「法的な偏差値」を「40→51」に上げることをイメージして書いたという。偏差値40ではつらいが、51なら何とか合格ラインに潜り込めるかも。読者にそんな希望を抱かせる。
著者の遠藤研一郎さんは1971年生まれ。中央大学法学部の教授だ。『民法(財産法)を学ぶための道案内』、『基本テキスト民法総則』などの専門書がある。そのほか共著に、いじめ、SNS、ブラックバイト、18歳選挙などから法律問題を説いて好評だった『高校生からの法学入門』もある。本書はおそらくその延長線上の単著なのだろう。
本書では「家族」「所有」「事件・事故」「居住」「仕事」といった身近な5つのテーマについて、小説、映画、マンガなどもまじえて法律を解説する。それぞれの章も「愛のカタチ――家族と法」「オレって持ってる――所有と法」「訴えてやる!――事件・事故と法」「それでも家を買いますか?――居住と法」「クジゴジ(9時~17時)――仕事と法」と、くだけた見出しになっている。
そこだけ見ると、軽い感じだが、実際にはかなり慎重に目配りをした記述になっている。そもそも「法律だけが私たちを縛っているわけではない」ことを前提としている。社会には道徳、倫理、常識など様々な規範がある。それらと法律との違いは「強制力」だという。もろもろのゴタゴタが規範を越え、法的レベルになると、刑罰や損害賠償が伴うというわけだ。
5つのテーマの中で、最も刺激的な見出しは「それでも家を買いますか?――居住と法」だろう。2013年時点での日本人の持ち家比率は約62%。しかし、買うのは借りるのに比べてリスクが高い。それでも買うのはなぜなのか。そのあたりを丁寧に説明している。要するに日本では、持ち家促進政策が政府の景気政策と連動しているということだ。
借りるにしろ、買うにしろ、それぞれの局面で法律が登場するので、登記、区分所有、更新料などを説明している。
貧困層の住宅問題にも触れている。世の中には住むところがない人もいる。憲法が自由権として保障する居住権から、社会権としての居住権への発想の転換は可能なのか? と問いかけている。
中学や高校で習う「法」は原理的、理念的な説明が多い。社会に出て直面するのは、より具体的な現実であり各論だ。法律と無縁だった人も、つねに法律に基づいて対応することを強いられる。身近なところで言えばコンビニの店長も、バイトも、本部チェーンの社員も・・・。
しかしながら、著者がわざわざ貧困層に関する住宅政策に触れているのは、法律というものは結局、大きな理念に支えられている、ということへの注意喚起でもある。法律を「法学」として学ぶというのはそうした理念を再確認することでもある。本書のタイトルを「法律」ではなく「法学」にした理由もそんなところにあるのではないか。
本書は、読み手の偏差値を40と設定しているので、それ以下の人にとってはまだ難しい面もあるかもしれない。その場合は、さらに易しい本からスタートして、とりあえず偏差値40を目指すのが良いだろう。とにかく実社会はトラブルだらけ。弁護士と相談するにも、最小限の法律常識があった方がプラスになる。弁護士料も安くはない。
関連で本欄では『カフェパウゼで法学を―対話で見つける<学び方>』(弘文堂)、『隣り近所のトラブル解決Q&A』(法学書院)、『詳解 相続法』(弘文堂)なども紹介している。
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