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14歳、読者の評価は「オール5」です

さよなら、田中さん

 これほど多くの称賛の声に包まれて登場する若手作家は少ないだろう。「比類なき才能」「文学界騒然」「朝日、毎日、読売ほか多数のメディアで話題沸騰」。

 中学生作家の鈴木るりかさん、14歳。本書『さよなら、田中さん』が本格的なデビュー作となる。

変なあざとさがない

 鈴木さんは小学生を対象にした小学館の「12歳の文学賞」で、小学校4年生から6年生まで3年連続で大賞を受賞した早熟の逸材だ。あさのあつこさん、石田衣良さん、西原理恵子さんらのプロから絶賛され、受賞作をもとに、書き下ろしも含めて連作短編集に仕上げたのが本書だ。「いつかどこかで」「花も実もある」「Dランドは遠い」「銀杏拾い」「さよなら、田中さん」の5編が収められている。

 各編の主人公はたいがい小学6年生の女の子「花ちゃん」。父の顔は知らない。ビンボーな母子2人暮らしだ。彼女を軸に、家庭や学校で起きる日常の小さな出来事が、軽い笑いと涙とともに描かれる。

 ちょっとしたドタバタ物語が多いが、変なあざとさがない。子どもワールドにすんなり入り込める。母親が花ちゃんに、けっしてお父さんのことを話さないのはなぜだろう。お父さんはひょっとして何か悪いことをして刑務所に入っているのかな。あるいは最近、不審者が学校の周辺に出没しているというけど、お父さんがこっそり会いに来ているのだろうか、などとあれこれ思いをめぐらす。

 発売2か月ですでに4刷。アマゾンの読者コメントで37人が評価しているが、全員が星5つ。「オール5」の状態だ(2018年1月12日現在)。ここまで高評価の本というのは珍しいのではないか。

錚々たる「文章神童」に続く

 作家にはいくつかのタイプがあるが、子供のころから文章力がずば抜けていたという人が少なくない。瀬戸内寂聴さんは、姉が持っていた文学全集を次々と読破し、小学校4年生の時には早くも作家を志していたという。谷崎潤一郎は東京府立一中(現在の日比谷高校)時代、一年生の時から毎年、学校内の作文コンクールで上級生を圧して優秀作文に選ばれていた。三島由紀夫や川端康成にもそうした「文章神童」の伝説が付きまとう。

 鈴木さんも小学校の時から受賞が続くが、いまのところ、変に大人びた擦れた感じがない。たぶん相当量の本を読んでいるのだろうが、作品の中でそれらをひけらかすわけでもない。同世代の小中生の読者が読んだとき、そうだよね、そんなことあるよね、と素直に共感できるショート・ショート集だ。

 漫画やゲームの影響だろうか、最近は子供向けの小説でも、現実離れしたストーリーの作品が増えているようだ。それらに比して鈴木さんの作品は地に足がついている。あまり作為が感じられないというのは、一つの才能だろう。当面はコツコツと、変に背伸びせずに、年齢相応の等身大の物語を積み上げてもらいたいと思った。

  • 書名 さよなら、田中さん
  • 監修・編集・著者名鈴木るりか 著
  • 出版社名小学館
  • 定価本体1200円+税
  • 判型・ページ数B6判・253ページ
  • ISBN9784093864848
 

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