NHK大河ドラマ「西郷どん」にあやかった訳ではないだろうが、相変わらず西郷隆盛に関連する出版が続いている。西郷のことばを残した『西郷南洲翁遺訓』に関する本も多い。
戊申戦争後に西郷は降伏した庄内藩に寛大な処置を行い、庄内藩士は西郷を敬愛するようになる。彼らがその遺訓を書き残した。
『王妃の離婚』で直木賞を受賞。『小説フランス革命』(全12巻)など西洋史を題材にした歴史小説を得意とする佐藤賢一が、久しぶりに日本ものを書いた。本書『遺訓』は、西郷が下野した明治6年から西南戦争終結後の明治11年まで、沖田総司の甥の沖田芳次郎を主人公の一人に据え、明治政府の内部抗争や西郷挙兵の内実を描いた作品である。
維新前の西郷を描いた小説が多い中で、本書は明治に入ってからなので、全体がモダンである。銃もスナイドル銃、シャープス銃、照準に目盛がついたウィットウォース銃、連射が出来るスペンサー銃など新式のものが登場する。
沖田芳次郎は旧庄内藩の家老たちから西郷の警備を命じられ、鹿児島へ向かう。芳次郎は剣の達人だが、多くの刺客や新式銃や大砲が主力となっている政府軍との戦いはいかに。
著者の佐藤氏は庄内藩のあった山形県鶴岡市の出身で、いまも鶴岡に住む。旧庄内藩士らが開墾した桑畑や茶畑など主人公らが明治はじめの東北で暮らした様子も説得力ある筆致で描かれている。
NHKEテレビは2018年1月から「100分 de 名著 南洲翁遺訓 西郷隆盛」を放送している。原著は岩波文庫から出ているが、難解である。実は世界情勢に敏感で開明的だった新しい西郷像が放送とテキストで提示されている。本書の西郷は悲運の将として描かれるが、大政奉還の前後を舞台とした「サムライ小説」ではないので、読後感は一味違う。著者が長年、西洋を舞台に作品を書いてきたことも関係しているかもしれない。(BOOKウォッチ編集部)
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