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「命を返してください」と詰め寄られても...

息子が人を殺しました

 殺人は誰でも犯す可能性がある、という話をどこかで聞いた気がする。カッとなったら、普段は冷静な人間でも、思いがけないことをやりかねないからだ。

 本書『息子が人を殺しました』はまさに、とつぜん身内が殺人犯になった場合のことを想定した本だ。

加害者の家族の側にスポットを当てた

 日本では年間の刑法犯罪が200万件を超える。かなり多いようにも思えるが、統計をじっくり眺めると、大半は窃盗だ。盗癖という言葉があるようにドロボーは習慣性が強い。それを職業にしているプロもいるから繰り返され、統計上の件数も多くなる。殺人となると、年間1000件前後にすぎない。しかもその中で「息子」が犯人になるケースはかなり少ないだろう。

 とはいえ、いったん殺人事件の当事者になると、確実にマスコミで大きく報道される。ネット時代の特性で匿名者による批判や攻撃も広がる。何よりも被害者の親族などの怒りは激しく、悲しみは深い。「命を返してください」と詰め寄られても、言葉がない。責任は本人のみ、と逃げることは日本の風土では難しい。友人、知人、近所の目も急変して、いっせいに去っていく。加害者だけでなく家族の人生にも、大きなバッテンが刻印されるのだ。

 本書はそうした殺人事件の加害者の家族の側にスポットを当て、事件の後に何が起きるか、辛い現実と苦悩などを綴ったものだ。

「家族は損害賠償をどうしているか」

「加害者家族に味方はいない」「報道陣が押し掛け引っ越す羽目に」「警察から丸裸にされる」「群がる宗教団体や霊媒師」「家族は損害賠償をどうしているか」「振り込め詐欺に騙されやすい」

 本書各項目の見出しを並べるだけでも、「事件後」に起きる想定外のことや家族の狼狽ぶりが手に取るように分かる。平穏な毎日は望むべくもない。

 著者の阿部恭子さんは東北大学大学院在学中の2008年、社会的差別と自殺の調査・研究を目的とした任意団体World Open Heartを設立。仙台市を拠点として、全国で初めて犯罪加害者家族を対象とした各種相談業務や同行支援などの直接的支援と啓発活動を開始、全国の加害者家族からの相談に対応している。

 これまでにも共著も含めて『性犯罪加害者家族のケアと人権』『交通事故加害者家族の現状と支援』『加害者家族支援の理論と実践』(いずれも現代人文社刊)などの専門書を出しており、まだ若いが、加害者家族支援のエキスパートだ。

 上述のように、殺人の件数は必ずしも多くはなく、繰り返す人はさらに少数だ。しかし、口論の果てに、あるいは介護に疲れて、などということは誰の身にも起こり得る。本書は新書ということもあって、テンポのよい文体。殺人以外の犯罪についても多数の例が出ている。まさかの時に備えて、あるいは自らの戒めのために、読んでおくとためになるかもしれない。

  • 書名 息子が人を殺しました
  • サブタイトル加害者家族の真実
  • 監修・編集・著者名阿部恭子著
  • 出版社名幻冬舎
  • 出版年月日2017年11月30日
  • 定価本体760円+税
  • 判型・ページ数新書・189ページ
  • ISBN9784344984738
 

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