戦後日本は「対米従属」の事実を「否認」していると指摘した『永続敗戦論』によって衝撃的に論壇にデビューした白井聡氏(京都精華大学専任講師)が、またしてもセンセーショナルな論考を発表した。本書『国体論』(集英社新書)は、「国体」という戦前日本を覆った概念が、戦後もアメリカによって媒介され再編されたと定義する。「平成」があと1年で終わろうとするいま、多くの人に読んでもらいたい書である。発売1カ月で5万部と売れ行きは好調だ。
明治維新から現在まで「国体」は続いているという。アメリカ(星条旗)が天皇(菊)よりも上位の権威となったのが「戦後の国体」だと読み解く。冒頭の年表が意表をつく。明治維新から敗戦までの近代前半と敗戦から現在までの近代後半は、それぞれ国体の形成期、国体の相対的安定期、国体の崩壊期に三分されるとする。国体の形成期は、近台前半では明治時代が相当し、そこでは「天皇の国民」。戦後は1975年ごろまでを想定し、「アメリカの日本」。国体の相対的安定期は、大正デモクラシーの時代を想定し「天皇なき国民」、戦後は76年ごろから91年のソ連崩壊あたりまでの「アメリカなき日本」。国体の崩壊期は、近代前半では日中戦争から敗戦に向かう時期で「国民の天皇」、戦後は91年の湾岸戦争あたりから現在に続く「日本のアメリカ」という概念にそれぞれ対応すると指摘する。戦前の歩みと戦後の歩みは並行しているように見えるのがミソだ。
白井氏は戦前と戦後の「国体」のありようについて詳細に検討する。なかでも戦後についての考察が示唆に富む。当初、共産主義対策を意図した国体護持の手段であったはずの対米従属は、共産主義の脅威が消えて、むしろ強化されたという。問題は日本の対米従属そのものではなく、その特殊な在り方にあり、そこに「国体」の概念が関与しているというのだ。
大日本帝国においては「天皇陛下の赤子」としての臣民だったのが、戦後は「アメリカは日本を愛している」という物語の亡霊が、国民の精神と生活を強く規定しているとする。だから対米従属の事実は不可視化され、否認される。だからこそ、「思いやり予算」や「トモダチ作戦」という情緒的な用語が使われるという。
白井氏は、本書を2016年8月8日の天皇の「お言葉」発言の場面から書き出す。それは「戦後民主主義の秩序を崩壊の淵から救い出す」ことが狙いの一つだったのではと推論する。安倍政権が打ち出した改憲などへの「闘争」の意図があるという。「お言葉」には闘う人間の烈しさがあり、その闘いには義があると感じたと記している。
白井氏は朝日新聞のインタビュー(2018年5月16日付、夕刊文化面)で、「支配層が国民をなおざりにして対米従属体制という『国体』をひたすら護持しようとする姿勢をあらわにした。そんな時代はもう終わらせなければなりません」と語っている。
もはや死語だと思っていた「国体」ということばから戦後日本をとらえ返した著者の力量に感服した。
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