読むべき本、見逃していない?

探偵事務所長だった近松門左衛門

近松よろず始末処

 大阪・梅田の通称「お初天神」は、繁華街の雑踏から一歩入ったところにあるが、昼も夜もいつも人でにぎわっている。江戸は元禄時代に、人気浄瑠璃作者・近松門左衛門が書いた「曽根崎心中」のヒロインお初が、いまも大阪の人々のこころに残っているのだ。

 本書『近松よろず始末処』(ポプラ社)は、近松が裏稼業「近松よろず始末処」を営み、さまざまな事件を解決するという設定の時代ミステリーだ。

 近松のもとで、実際に走り回る二人の部下は、裏社会で育った元・賭場の用心棒の虎彦と美丈夫の剣士、少将だ。虎と少将は、近松の『世継曽我』から来ており、依頼人がその題名を口にするかどうかで、近松の機嫌は変わる。

 「お犬さま」「仇討ち」「西鶴の幽霊」「曽根崎異聞」の4章からなり、4つの事件が現れる構成だが、ひとつながりの作品なので、最後まで読み通すと驚きの構図が見えてくる。

 著者の築山桂さんは、NHK土曜時代劇の原作となった『緒方洪庵 浪華の事件帳』シリーズの作者で、大阪大学大学院博士後期課程単位取得の研究者肌の作家。大坂物の多くの作品を書いている。

 本書も大坂が舞台なので、江戸を舞台にした作品とはおおいに肌触りが違う。ごろつきだった虎彦は、近松に助けられたところから仕事を手伝うようになった。虎彦は鬼王丸という犬に命を助けられた恩義もあり、かわいがっていた。「お役人様に頼っても埒があかない厄介事を、道頓堀で培った伝手と知恵とで始末する商売」をなぜ近松が始めたのか。一方で、この「探偵稼業」は金目当てだとも近松はうそぶく。こうした人物造形が新鮮だ。

 第1章「お犬さま」の事件が解決したころ、町で話題になった芝居があった。外題は「摂州忠犬鑑」。命をかけて仇を打った犬の話で、実在の事件を想起させたが公儀も文句をつけることができなかった。近松が名を明かさずに書いた芝居だった。

 そして最終章「曽根崎異聞」は「曽根崎心中」そのものが下敷きになり、浄瑠璃作者として成功する近松が描かれている。近松を主人公にしたドラマでは、松尾スズキが演じた「ちかえもん」などがあるが、本書もいずれ連続ドラマの原作になりそうだ。   

     
  • 書名 近松よろず始末処
  • 監修・編集・著者名築山桂 著
  • 出版社名ポプラ社
  • 出版年月日2018年4月18日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数四六判・333ページ
  • ISBN9784591156940

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