読むべき本、見逃していない?

もはや「安定した国家公務員」ではない

災害派遣と「軍隊」の狭間で

 自民党の改憲案が固まり、自衛隊を明記する方向となった。改めて自衛隊の存在がクローズアップされている。

 本書『災害派遣と「軍隊」の狭間で――戦う自衛隊の人づくり』(かもがわ出版)は海外派遣が恒常化する中で、少しずつ様変わりする近年の自衛隊の姿を伝えている。2012年の刊行なので、内容的には少し古いが、大筋の傾向は変わらないだろう。

好感度が9割を超えた

 25万人規模の要員を保有し、日ごろは主に訓練に明け暮れている自衛隊。スポットが当たるのは、災害救援やPKOがらみの時が多い。本書の著者、「平和新聞」編集長の布施祐仁さんはまず東日本大震災での救援活動を振り返る。「自衛隊員の真摯で献身的な活動に対して、被災者はもとより、多くの国民から賞賛が寄せられた」。内閣府の世論調査では自衛隊に対する好感度が9割を超えた。

 だが、言うまでもなく自衛隊の主たる任務は「国防」だ。自衛隊法でも明記されている。「災害派遣」はあくまで「従たる任務」。しかも、「国防」の範囲が近年どんどん拡大している。

 1991年、ペルシャ湾に掃海艇を出したのを皮切りに、92年には国連平和協力法が制定され、自衛隊が国連平和維持活動(PKO)に参加するため海外に出ていくようになった。当初は活動が限定されていたが、2001年にはインド洋に自衛艦を出してアフガニスタンの米軍を後方支援(給油)、イラク戦争では「人道復興支援」の名目で長期に陸上自衛隊が派遣され、航空自衛隊の輸送機が米兵を運んだ。

 その後の南スーダンPKOでは自衛隊の宿営地の隣で政府軍と反政府軍の激しい戦闘があった。しかも「日報」が隠されていたことがわかり、17年7月には防衛大臣が辞任する騒動となった。情報公開請求で、この問題の火付け役になったのが本書の著者、布施さんだ。

PKOは大きく変質

 PKOでは、治安が落ち着いた地区に、人道支援で送り込まれるというのが当初の政府の公式的な説明だった。実態はどうなのか。布施さんは03年にイランまで確かめに行ったのだが、バグダッドでいきなり爆弾テロに遭遇した。とつぜん大きな爆発音がして地面が揺れ、背後から衝撃波に襲われた。運よく助かったが、腰が抜けたような状態になったという。現場は、バグダッド市内でも最も治安が良いといわれていた地区だった。

 戦乱の地では、何が起きるかわからないということを布施さんは身をもって知った。その後、実際に現地に派遣されていた隊員の体験談も聞いている。やはり「死を意識する事件」に遭遇したという。出発前には日本国内で、「犯人が逃げ込んだ建物内に突入する」という非常事態を想定した武器使用の特殊な訓練も受けていたそうだ。「人道支援」「正当防衛」の域を大きく超える訓練だった。

 自衛隊にはすでに「対テロ掃討」を主務とする部隊も作られている。米軍との共同訓練も積んでいるようだ。布施さんによれば、精鋭部隊では、命は上官に預けるという、「軍人精神」をたたき込むような教育も強化されているという。

 「災害救助をやりたい」というような気持ちで自衛隊に入ったのでは続かない、という隊員の声も紹介されている。とにかくPKOは今や「比較的治安が保たれた状態での平和構築からは大きく変質し、より厳しい環境で行われるようになっています」(中西寛・京都大教授、朝日新聞、2018年3月24日)ということを押さえておく必要がありそうだ。

自殺やストレスのリスク

 自衛隊は主に地方の高校生をターゲットに募集活動をしている。その実態も本書では報告されている。衣食住のコストがほとんどかからず高卒で月給16万円とか、いろいろ資格がとれるというのがセールストークだ。中途採用を含め経済的な事情で入隊する人が少なくない。

 確かにかつては、「戦わない軍隊」であり、「安定した特別職の国家公務員」だった。ところが今やPKOで海外派遣されるのは例外的な人だけではない。イラクには陸上自衛隊だけで5600人が派遣されたという。軽い気持ちで入隊してもいつか自分も海外の「厳しい環境」に放り込まれる確率が高まっている。

 防衛庁が公表している自殺者のデータも掲載されている。それによると、イラクには派遣された陸上自衛隊員の自殺率は、一般の陸上自衛隊員の約3倍だそうだ。著者は自殺の原因分析は単純ではないことを認めつつも、海外派遣が隊員たちにストレスを増加させているのは間違いないとみる。別途入手した内部情報によると、ソマリア・アデン湾での海賊対処活動に派遣された隊員のうち、5人に1人がストレスチェックで「要注意判定」だったという。

 そういえばNHK特集でも、「イラク派遣」の実相が2014年4月16日に放送されていたが、たしか同じような指摘があった。5年間で延べ1万人が派遣され、帰国後28人が自ら命を絶っていた。迫撃砲やロケット弾による宿営地への攻撃は13回。非戦闘地域のはずだったが、まさかに備えて棺も準備していたという。自衛隊をめぐる大所高所の議論は別にして、個々の隊員にとっては、なかなか大変な時代になっているということは間違いないようだ。

  • 書名 災害派遣と「軍隊」の狭間で
  • サブタイトル戦う自衛隊の人づくり
  • 監修・編集・著者名布施祐仁 著
  • 出版社名かもがわ出版
  • 出版年月日2012年7月 1日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数B6判・172ページ
  • ISBN9784780304220

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