『黒革の手帖』のテレビドラマが昨年(2017年)リメークされ、ヒロインを武井咲が演じたが、米倉涼子には及ばなかったと話題になった。悪を演じるには女優としての経験が足りなかったのかもしれない。松本清張作品の再文庫化、映像化は没後25年たった2017年でも衰えることはない。むしろ国家による情報の隠蔽や操作が問題になっている今こそ、松本清張の方法が求められている、というのが本書『松本清張「隠蔽と暴露」の作家』(集英社新書)の著者高橋敏夫氏(文芸評論家)の主張だ。
第Ⅰ部が松本清張の人生の検証だ。社会の最下層に生まれ、学歴や職種で差別される側にあったことは本人も記しており、よく知られたことだが、著者はネガティブな体験を次のステップにしたことが作家松本清張の誕生につながったと考えている。権力への怒り、「未来」に関心をもてないための「過去」の直視、それらが「隠蔽と暴露」の方法論を生んだというのだ。
第Ⅱ部では、戦争、明るい戦後、政界、官界、経済界などのテーマごとに作品分析を試みている。戦後になっても姿を現すことができない元外交官を描いた『球形の荒野』、明るい戦後が暗い過去を抹殺しようとする『砂の器』、政界、官界、経済界による隠蔽が犯罪を生んだ『点と線』『けものみち』『黒革の手帖』など。
このほかアメリカ占領下の日本の闇に切り込んだ『小説帝銀事件』『日本の黒い霧』など。著者は日米合同委員会の決定事項は憲法にも優先される事態がいまも続いており、「オキュパイドジャパン」(占領下の日本)は終わらない」と指摘する。
多くのタブーに挑戦した松本清張だが、その最大の謎が原子力発電に踏み込まなかったことだ、と著者は最終章に記す。海外の原発を取材していたが、幻の作品になったようだ。2011年の福島第一原子力発電所の破局的な事故の19年前に亡くなっており、さすがに想像力が及ばなかったのだろうか。
ところで、清張作品の後味の悪さはどうだろう。読み終わって謎は解決したはずなのに、事態はなにも変わっていないような感じがつきまとう。新たな謎が生起する。隠蔽は永遠に終わらないからなのだろうか。
清張作品の研究書は次々と出ており、最近では『清張鉄道1万3500キロ』(文藝春秋)、 『旅と女と殺人と 清張映画への招待』(幻戯書房)などもある。
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