没後25年を過ぎたが、松本清張の人気が衰えない。最近も作品に登場する鉄路をたどった『清張鉄道1万3500キロ』(文藝春秋)が出版され、また、改めて作品の社会性に迫った『松本清張 「隠蔽と暴露」の作家』(集英社新書)も出た。
本書『旅と女と殺人と 清張映画への招待』(幻戯書房)は、映画化された清張作品についての完全ガイドだ。著者の上妻祥浩さんは1968年生まれの映画研究・文筆・解説者。
松本清張は1953(昭和28)年に『或る「小倉日記」伝』で芥川賞を受賞し、昭和30年代に入って『点と線』『ゼロの焦点』などで社会派推理小説ブームを引き起こした。日本の映画全盛期と重なったこともあり、映画化されることが多かった。本書は57年の最初の映画作品『顔』から年代順に36作品について、製作経緯なども含めて詳述し、監督や俳優、スタッフなどの資料も添えている。
清張映画といえば、誰もが最初に思い起こすのは『砂の器』だろう。当時はまだ取り上げることが難しかったハンセン病を、ミステリーの伏線に置いた。美しい日本の四季を背景に主人公たちが放浪するクライマックスの回想シーンは、日本映画史に残る名場面としてよく知られている。2017年にはオーケストラによるシネマコンサートが開かれ、今年4月にも再演が決まっている。
強烈な自負心と、周囲を威圧するかのような気難しい雰囲気が漂う清張だが、本書によれば、映画化に当たって本人は「作品と映画は別物」と考え、ほとんど口を挟まなかったという。映画製作者の側も、よく清張作品の内容を理解し、原作とのブレが少なく、清張自身もたいがい満足していたという。「日本映画ベスト100」などというリストには『砂の器』のほか『張込み』などが入ってくることが多い。
その両作品とも、撮ったのは野村芳太郎監督だ。さらには『ゼロの焦点』『鬼畜』『影の車』『わるいやつら』『疑惑』なども。二人はいっしょに映画の企画制作会社「霧プロダクション」をつくり、二人三脚だった。しかし後年、関係がこじれ、その結果、清張作品の映画化は長い休眠状態に入ったという。
清張に限らず、かつての文豪や大作家には、映画化された作品が多い。谷崎潤一郎や三島由紀夫、川端康成などいずれも相当な本数にのぼる。最近でも高村薫、宮部みゆき、東野圭吾などの作品はあるが、大先輩たちには遠く及ばない。
昭和20~40年代に比べて、映画の人気が落ちたこともあるが、それだけではないような気がする。近年、芥川賞や直木賞は昔より派手に扱われるが、作品の底の深さや重みはどうなのか、気になるところだ。
加えてもうひとつ、本書では清張作品の特徴として、「読んでいるとその情景が容易に目に浮かんでくる」ことを挙げている。これは三島、谷崎や川端にも言えることだ。
作家にとって不可欠なのは、映像的な描写力。そのあたりは近年、アニメ作家たちにお株を奪われているような気がする。はたして清張のように、映像を通して振り返られる小説家は、今の時代にいるのだろうか。そう考えると、本書は別の意味も持つ。
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