クイーンの"Don't Stop Me Now"のCMソングとともに2020年7月1日から、東海道新幹線にデビューしたJR東海の新型新幹線車両N700S。スピード、安全性、快適性において新幹線の究極の進化形として、13年ぶりに東海道新幹線に登場した車両だ。
本書『限界破りの鉄道車両』(交通新聞社新書)は、限界を破り、新機軸を盛った新型車両を誕生させようとしてきた、日本の鉄道車両の進化の軌跡を追った本である。
蒸気機関車やディーゼルカー、電車はご存じだろうが、そのほかにガソリンカーがかつて走り、ガスタービン列車が試作され、はては原子力機関車までもが構想された破天荒な鉄道の歴史を紹介している。
構成は以下の通り。
第1章 蒸気機関車の限界へ 第2章 電車と気動車の出現 第3章 電化・ディーゼル化、新動力への模索 第4章 「新性能電車」の誕生 第5章 新幹線は「ノーズ」とともに成長 第6章 日本の風土に合わせて鉄道が進化
イギリス人の指導の下、1872年に京浜間の鉄道が開通した。その後、各地に鉄道が延びていったが、蒸気機関車は英米からの輸入に頼った。SL(蒸気機関車)の完全国産化は、1914年まで待たなければならなかった。
SLの強大化、技巧化について詳しく解説している。一度使った蒸気を第2シリンダーに送り再度有効利用する「複式シリンダー化」やシリンダーおよびピストンを動輪の左右両側に排する2気筒ではなく、3気筒ないし4気筒にする「多気筒化」である。国産では唯一、C53形が3気筒方式を採用した。
戦前のオランダ統治時代に活躍したインドネシア国鉄(狭軌)の1000形蒸気機関車は、複式4気筒という凝ったメカニズムを採用し、最高時速120キロを実現したというから、「狭軌では日本はいい線を行っていた」という思い込みは日本人の「岡目八目」のようだ。日本のC62形の最高運転時速は95キロ。標準軌のイギリスやドイツにおいて、SLは時速200キロ超えを実現していた。著者は次のように弁護している。
「日本のSLの完全な国産化は1914~1949年のたった35年間に過ぎない。だから島をはじめ国鉄技術者たちはSLの日本向け最適化という現実的な使い勝手を重視しつつも、その先にはもう無煙化、とくに電化、その中でもとりわけ電車構想が戦前からちらつき、そちらの方向に思いを馳せていたのではないだろうか。それにも一理あろう」
ここに出てくる「島」とは島秀雄。日本を代表する鉄道技術者で、のちに国鉄技師長として東海道新幹線の実現に尽力した。
ディーゼルカー(気動車)を知っている人は多いだろうが、ガソリンカーは? 日本では戦前、ガソリンカーが主役だった、とあり驚いた。地方鉄道では、フォードなどアメリカ製エンジンが日本の車両メーカーが造った車体と組み合わされた。
鉄道省も2種類のガソリン・エンジンを開発、キハ41000形、キハ42000形に搭載された。1935年に開発されたガソリン・エンジンGMH17系をベースにしたDMH17系ディーゼル・エンジンは1951年に量産され、1968年まで使われた。
その後の電車などの進化を詳述しているが、本書で初めて知り驚いたのは、原子力機関車「AH-100形」である。国鉄が研究した。
EH10形電気機関車に相当する3000馬力の在来線用貨物列車で、全長30メートル、自重179トンというシロモノだ。1.9トンの原子炉に対し、遮蔽体だけで109トンを必要とした。ちなみにD51の総重量が125トンというから、決して線路に乗らない重さではなかったようだ。
「最終報告書は1957年にまとめられたが、実現可能であるとしつつも、新造費用がかかりすぎるうえに、技術的課題が多すぎるとされた。そのうえで、原子力機関車より原子力発電による電化に取り組む方が現実的であると結論された。結局、原子力機関車は世界中どこにも実現しなかった」
最終章では、カーブが多い日本の路線に対応した車体傾斜車両、なかでもJR四国の特急気動車2000系などを取り上げている。さらに各社のハイブリッド車両も。
JR東海が建設中の「リニア新幹線」が限界破りの鉄道車両になるだろうが、静岡県との地下水問題協議が泥沼化し、2027年開業が断念されたばかりだ。本書でも「おわりに」で簡単に触れている。
著者の小島英俊さんは1939年生まれ。東京大学法学部卒。三菱商事に長く勤務した。鉄道史学会会員。著書に『新幹線はなぜあの形なのか』(交通新聞社新書)、『鉄道快適化物語』(創元社)など。
BOOKウォッチでは鉄道関連で、『鉄道路線誕生秘話』(交通新聞社新書)、『東京駅コンシェルジュの365日』(交通新聞社新書)、『オリンピックと鉄道』(交通新聞社新書)、『ライフスタイルを変えた名列車たち』(交通新聞社新書)などを紹介済みだ。
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