本を知る。本で知る。

「塀の中」は「母の子宮」だった・・・

塀の中はワンダーランド

 「塀の中」といえば、ベストセラーになった安部譲二さんの『塀の中の懲りない面々』が有名だ。本書『塀の中はワンダーランド』(KKベストセラーズ)も同じく刑務所もの。著者の元ヤクザ、さかはらじんさんの体験記だ。「塀の中は母の子宮だった」という。

累計20年を超える「監獄」暮らし

 さかはらさん(本名:坂原仁基)は1954年生まれ。幼年期に母を亡くし、兄と二人の生活。極度の貧困のため小学校は1か月で中退。8歳で父親に引き取られたが、10歳で継母と決裂。素行の悪さから教護院へ。17歳で傷害・窃盗事件を起こし、鑑別所に入れられる。

 20歳で渡米。ニューヨークのステーキハウスで修行。帰国後、22歳で覚せい剤所持で逮捕。23歳で父親への積年の恨みから殺害を実行するが、失敗。 銃刀法、覚せい剤使用で中野や府中刑務所へ。28歳で出所後、再び覚せい剤使用で府中刑務所に逆戻り。29歳、本格的にヤクザ道へ突入。府中、新潟、帯広、神戸、札幌刑務所の常連として累計20年の「監獄」暮らし――。

 しかし、人生54年目、獄中で自分の人生と向き合う不思議な啓示を受け、出所後、キリスト教の教えと出逢う。現在、ヤクザな生き方を離れ、建築現場で実寸の設計図を書く墨出し職人として働く――。

 人生の約三分の一を「塀の中」ですごしてきたが、刑務所は妙に安心できる場所でもあったという。刑務所仲間の多くも、懲りずに何度も刑務所に舞い戻る。

 さかはらさんは「塀の外」のカタギの世界にも、世間という常識の「塀」があると見る。刑務所もシャバも、みんな窮屈な「塀」に囲まれている、と書いている。

 本書では時折「塀の中」を経験した人たちの「隠語」が解説されている。「アカ落ち」とは、刑務所のアカを落としてシャバに出ることではなく、シャバのアカを落とすこと、つまりムショに入ること。「引っ込み」とは出所のことだ。刑務所と世間の関係が、常識的な理解とは逆になっている。

「ジンさんは渡しません!」

 本筋ではないが、本書を読んでびっくりするのは、さかはらさんのモテモテぶりだ。背が高く、ガタイが良い。著者写真を見ると、渋めの新劇俳優のような顔。気風もいい。自宅に女性が押しかけてきて、妻を含めて4人の女性が言い争ったこともあったという。「二号にしてよ」「ダメです!」「ジンさんは渡しません!」。出所後もすぐに、新たな女性と親密になってしまう。日本人だけではない。スパニッシュ系とか中国人とかも。

 さかはらさんは、なかなかの勉強家でもある。まともな教育は受けていないから、もとは読み書きは苦手だった。そのため刑務所の中では読書に励んだようだ。わからない言葉はノートに書き出していたという。

 覚せい剤の怖さについては特に強調している。過剰摂取で死んだり、中毒になって自殺したりした仲間が、身近なところで何人もいた。自身もなかなかやめられなかった。「自分の意思でやめようと思ってもやめられないのがシャブの怖さ」だという。

 洗礼を受けてからも、入手しようとしたことがある。体の芯から突き上げてくる衝動に襲われて薬が欲しくなる。ある日、トイレに駆け込み、携帯電話で密売人に電話をかけようとしたら、突然、体がブルブル震え始めた。電話番号のプッシュができない。しばらくして震えがやむと、不思議なことに、薬への欲望が消えていた。「わたしはあなたを強くし、あなたを助け、わが勝利の右の手をもって、あなたをささえる」(『イザヤ書』)という聖書の言葉を彷彿させる出来事だったという。

「ヤクザな生き方」は悔い改めた

 現在は、知り合いの会社で建築測量・墨出し工の仕事をしている。「墨つぼ」という道具を使って、墨をつけた糸を伸ばす。柱の中心線や床・壁の仕上げ面の位置など、工事の基準となる線を構造体などに記す作業。建築工事現場では、極めて重要な仕事だ。

 今も生きるにあたって「任侠道の精神」は悔い改めてはいない。しかし、「ヤクザな生き方」は悔い改めたという。「監獄とシャバの往復人生」も、「神がボクを愛するがゆえに与えてくれた試練であり、その中で育てられてきたのだ」と語る。類書の少なくない「塀の中」物語の中でも、やや異彩を放っている。

 BOOKウォッチでは関連で、『刑務所しか居場所がない人たち――学校では教えてくれない、障害と犯罪の話』(大月書店)、『本当の貧困の話をしよう―― 未来を変える方程式』(文藝春秋)、『加害者家族の子どもたちの現状と支援――犯罪に巻き込まれた子どもたちへのアプローチ』(現代人文社)、『鎖塚――自由民権と囚人労働の記録』(岩波現代文庫)、『少年犯罪はどのように裁かれるのか。――成人犯罪への道をたどらせないために』(合同出版)、『サカナとヤクザ』(小学館)、『警察官という生き方』(イースト新書Q)、『マトリ――厚労省麻薬取締官』 (新潮新書)、『麻取や、ガサじゃ!――麻薬Gメン最前線の記録』(清流出版)、『恩赦と死刑囚』(洋泉社新書y)、『ヒトラーとドラッグ――第三帝国における薬物依存』(白水社)なども紹介している。



本を読みながら、好きなBGMを流してみませんか?


  • 書名 塀の中はワンダーランド
  • 監修・編集・著者名さかはらじん 著
  • 出版社名KKベストセラーズ
  • 出版年月日2020年5月27日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数四六判・253ページ
  • ISBN9784584139264

オンライン書店で詳しく見る(購入もできます)

デイリーBOOKウォッチの一覧

一覧をみる

アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!

おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

出版社の皆様!

御社の書籍も、
BOOKウォッチに
掲載してみませんか?