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「塀の中」知る山本譲司さんの「終わらないたたかい」

刑務所しか居場所がない人たち

 刑務所の入所者に認知症が増えているとか、まるで福祉施設になり始めているとか、最近そんなことがしばしば報じられている。高齢化社会が刑務所にも押し寄せているというのだ。

 本書『刑務所しか居場所がない人たち――学校では教えてくれない、障害と犯罪の話』(大月書店)は、そうした刑務所の最新事情を、実際に服役し、出所後は高齢者や障害者の受刑者の社会復帰に取り組んでいる元衆議院議員の山本譲司さんが、わかりやすく報告したものだ。

約2割は知的障害がある可能性

 いくつかの生々しいデータや実例が紹介されている。刑務所に入るときは必ず知能検査を受けるそうだが、2016年に新たに入った受刑者約2万500人のうち、約4200人は知能指数が69以下、知的障害があるとみなされるレベルだった。一般社会よりもかなり高い確率だ。

 同じく16年に検挙された刑法犯のうち、65歳以上の高齢者は約4万7000人で、全体の2割を超えている。これは20年前の5倍以上。社会全体の増え幅は約2倍弱だから、刑法犯の高齢化が進んでいる。

 知的障害、高齢化、再犯・・・。実際の犯行で多いのは窃盗だ。ある知的障害者の場合、神社の賽銭箱から200円を盗み執行猶予。外に出られたんだから悪いことをしたんじゃないと思って、また100円盗んで今度は実刑判決。裁判では「まだ神様に700円貸している」と主張した。どういうことかというと、むかし母親と一緒に神社に行ったとき、母が1000円を賽銭箱に入れたことをしっかり覚えていた。だから差し引き700円の貸しがあると思い込んでいるのだ。

60歳以上の受刑者の約14%は認知症の疑い

 山本さんによれば、高齢受刑者の約70%は累犯者で、60歳以上の受刑者の約14%は認知症や、その疑いがある人だという。こうした人の中には、もう自分で身の回りのことができなくなっている人も少なくない。山本さんは服役していたころ、彼らの世話をする係だった。房の中にあるトイレもうまく使えない。ウンチや尿にまみれた床を掃除する。着替えを手伝う。自分が刑務所にいるということが、もはやわかっていない受刑者もいた。

 16年には約9600人が刑務所を満期出所したが、その半数以上は行く当てがないまま社会に出されている。こうした満期出所者の半数近くは、5年以内にまた刑務所に戻ってくるそうだ。

 山本さんは秘書給与をめぐる詐欺、政治資金規正法違反で2001年に実刑判決を受け服役。出所後は訪問介護員として働く一方、04年に書き下ろした『獄窓記』が新潮ドキュメント賞を受賞。その後も『続 獄窓記』、『累犯障害者』などを出版して、刑務所の抱える問題を世間に訴えてきた。NPO法人ライフサポートネットワークや更生保護法人同歩会をつくり、受刑者の社会復帰に取り組んでいる。

 13年には検察庁に社会福祉士が配置されるなど、受刑者をケアしようとする仕組みやサポート体制は徐々に整いつつあるという。逮捕され、服役したことで国会議員が知ったリアルな受刑者たちの世界。「出所者の問題に一定の道筋をつけなかったら、自分自身の受刑生活が終わらない気がする」ということなので、山本さんの活動はまだまだ続く。

  • 書名 刑務所しか居場所がない人たち
  • サブタイトル学校では教えてくれない、障害と犯罪の話
  • 監修・編集・著者名山本 譲司 著
  • 出版社名大月書店
  • 出版年月日2018年5月17日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・168ページ
  • ISBN9784272330935
 

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