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大林宣彦監督の「最後の講義」

最後の講義 完全版 大林宣彦

 2020年4月10日、肺がんのため82歳で亡くなった映像作家・大林宣彦さん。闘病を続けながら完成させた映画「海辺の映画館――キネマの玉手箱」は、新型コロナウイルスの影響で公開延期となっていたが、この度7月31日の公開が決定した。本作は、大林さんの故郷である広島県・尾道が舞台。閉館を迎えた海辺の映画館で「日本の戦争映画大特集」を観ていた若者3人が、スクリーンの世界にタイムリープ。上映中の「戦争映画」の世界を旅するストーリー。

 本書『最後の講義 完全版 大林宣彦』(主婦の友社)は、遺作となった「海辺の映画館」と同じく、大林さんが未来を託された若い世代へメッセージを送るもの。

 「これから過去の話をしていきますが、皆さんの未来に役立つ話だと思って聞いてください」

「人生最後」の覚悟

 大林宣彦さんは、1938年生まれ。自主製作映画を経て、テレビCMを多数制作。77年「HOUSE/ハウス」(77)で劇場映画に進出。82~85年「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」の尾道3部作で新たなファンを獲得。2016年8月に肺がんで余命3カ月を宣告されたが、17年「花筐/HANAGATAMI」を完成させた。04年春の紫綬褒章、09年秋の旭日小綬章を受章。19年文化功労者として顕彰。

 タイトルの「最後の講義」とは、「もし今日が最後だとしたら、何を語るか」という問いのもと、各界の第一人者が「人生最後」の覚悟で講義を行ったNHKのドキュメンタリー番組。

 本書は「最後の講義『大林宣彦』」(2018年3月放送)の未放送分を含めて書籍化したもの。大学生に語った3時間を収録した完全版となっている。大林さんを追悼して制作されたものではないが、結果として大林さんが亡くなる直前の刊行となった。

戦争の記憶と平和への祈り

 本書の目次は以下のとおり。

序章 映画とはフィロソフィーである
第1章 「あの時代」の映画に込められていたメッセージ
第2章 「平和孤児」にとっての戦争、「今の子どもたち」にとっての戦争
第3章 ネバーギブアップとハッピーエンド
第4章 自分に正直に生きるということ
第5章 映画がいらない時代がくるまでは...
終章 最後のメッセージ

 これから未来の映画をつくっていくためには、「過去の映画についてよく知っておくことが大切」としている。本書は、大林さんの話に登場する数々の作品、出演者に関する脚注が豊富で、映画史を概観できるようになっている。

 前半は「ぼくが今も現役で映画をつくれている理由」「戦後に迷子になった平和孤児」「映画によってつないでいく過去と未来」など。日中戦争のさなかに生まれ、物心がついた頃には太平洋戦争が始まり、「敗戦後の平和な時代を担う最初の表現者」として大人になった大林さんの中に、戦争の記憶と平和への祈りが深く刻まれていることがわかる。

 後半は「祈るように生み出したフィロソフィー」「『バトンタッチ』でつくっていく平和」「ぼくは130歳くらいまで生きます」など。医家の旧家に育ったため常に死が身近にあったこと、慶應医学部の試験の途中で教室から出て行ったエピソードなどをまじえて、映画の道を志した背景、映画をつくり続ける理由を語る。

 「ぼくが最初に『映画をつくるよ』と言ったとき、父は『自分がやりたい道を行けるのは平和の証拠だ』と言って、すぐに認めてくれました」

 登場人物の様子が目に浮かび、声まで聞こえてきそうで、まるで一本の映画を観ているかのようだった。日本映画界のレジェンドの生涯が、ありありと再現されている。

映画は「メイク・フィロソフィー」

 大林さんがこの講義の「伝えたい核心」としたのが、「映画とはフィロソフィーである」ということ。映画は「メイク・フィロソフィー」であり、「世界に対してどういう考え方を持つべきか。それを学び、より柔軟により深く、自覚を芽生えさせてくれるもの」としている。

 「『戦争や病気ごときには殺されねえぞ。世界が平和になるまで生き抜いて、間違いなく平和にしてやるからな』ぼくがそう思っているように、みんなにもそういう覚悟を持ってほしい。それがぼくからのメッセージです」
 「ぼくは130歳くらいまで生きて、映画をつくっていかなければならないと思っています。......戦争などはなくなり、映画なんてもういらない、となる日がくるまで、ぼくは映画をつくり続けていくつもりです」

 ポップな表紙に読みやすい文字サイズ。本書は気軽に手に取りやすいつくりでありながら、ずしりと重たい読後感がある。大林さんが「未来のために、ぼくが知っている過去のことを伝えなければならない」と臨んだ「最後の講義」。本当に最後となってしまったが、今こうしたかたちで大林さんの講義を受け、メッセージを受けとれることがありがたい。

 「もしぼくが、道半ばにしてこの世を去るようなことになったら、そのときはどうか、続きを引き受けてください」

 BOOKウォッチでは関連で『たたかう映画』(岩波新書)、『証言 沖縄スパイ戦史』(集英社新書)、『反戦映画からの声』(弦書房)、『復活の日』(角川文庫)、「映画祭 映画と天皇」(日本大学芸術学部、ユーロスペース)なども紹介している。



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  • 書名 最後の講義 完全版 大林宣彦
  • 監修・編集・著者名大林 宣彦 著
  • 出版社名株式会社主婦の友社
  • 出版年月日2020年3月31日
  • 定価本体1300円+税
  • 判型・ページ数四六判・206ページ
  • ISBN9784074391219

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