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職場に「発達障害者」どう受け入れるか

発達障害の人の雇用と合理的配慮がわかる本

 発達障害という言葉をよく聞くようになって久しい。自閉症、アスペルガー症候群、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)などに類する脳機能の障害とされている。日本では2004年に発達障害者支援法が成立し、様々な支援策も講じられるようになった。

 本書『発達障害の人の雇用と合理的配慮がわかる本』(弘文堂)は、発達障害の人を雇用する立場の人に向けて書かれたガイド本だ。一般社団法人「日本雇用環境整備機構」石井京子理事長らによる共著となっている。

障害者雇用数は56万人を超えて過去最高に

 障害者の雇用は、16年に障害者差別解消法の施行されたことで、追い風が吹いているという。行政機関や民間企業の事業者に対して、「障害のある人への差別的取り扱いの禁止」と「合理的配慮の提供義務」が課せられるようになったからだ。

 19年6月時点で、全国の障害者雇用数は56万人を超えて過去最高になった。また、厚労省の18年度のハローワークにおける障害者の雇用紹介状況調査では、就職件数は10万2318件。対前年度比で4.6%増。そのうち精神障害者の就職件数は4万8040件で対前年度比6.6%増となっている。この統計の「精神障害者」の中に発達障害のある人も含まれていると考えられている。

 本書では冒頭、最近起きた大問題――中央官庁による障害者雇用数の水増し問題に触れている。28の行政機関で3700人分の水増しが発覚した。その結果、法定雇用率を達成するために、新たに精神障害者の雇用が必要となり、19年2月、初めて障害者限定の国家公務員試験が行われ754人が合格した。障害者別の内訳では「精神」が432人で最多だった。

 この時の合格者は、すでに民間企業で働いていた障害者が多かったと推定されている。つまり、民間企業から公務員に転じた人が大量に出たことで、民間企業の障害者雇用率が下がってしまった可能性がある。また、21年3月までに、障害者の法定雇用率が現在の2.2%から0.1%引き上げられることにもなっている。このため、民間企業では今後、いちだんと真剣に積極的に障害者の雇用に取り組まざるをえない。

 障害者の中でも、特別な配慮の要らない身体障害者はすでに雇用され、人材不足が続いているという。本書はこのような環境変化を背景に、ハローワークでも精神・発達障害者の就職件数が伸びており、雇用側はさらなる対応を迫られていると見る。

具体的なQ&Aが並んでいる

本書は以下の構成。

 第1章 障害者雇用と発達障害のある人の採用
 第2章 発達障害の特性と合理的配慮――医療の観点から
 第3章 就労における課題と合理的配慮についてのQ&A
 第4章 当事者理解とコミュニケーションの進め方
 第5章 発達障害のある人の本音と合理的配慮

 この中で、特に具体的で目を引くのは「第3章」だ。「面接・採用時篇」と「就業開始後篇」に分けて、以下のようなQ&Aが並んでいる。

 ――面接・採用時篇
      Q 面接の日程はこちらで指定していいですか?
      Q 対話が苦手のようですが、面接中の会話はどうしたらいいですか?
      Q 面接の進め方は、定型発達の人と同じでいいのですか? など。
 ――就業開始後篇
      Q 配慮をいくつも提供してきましたが仕事ができません。
       このまま同じ業務を続けさせてよいのでしょうか?
      Q 昇進昇格については、どのような配慮が必要ですか?
      Q 当事者から、何度も配慮変更の申し出があった場合には、
       どうすればいいでしょうか?
      Q 突拍子のない発言で周囲に迷惑をかけることがあります。
       注意したいのですが、どうしたらいいでしょうか?
      Q 仕事に集中したいので、耳栓をしたいと言われました。
       許可してよいのでしょうか? など。

 本書のタイトルにもなっているが、「配慮」という文言が頻発する。発達障害の人には様々な得手不得手があり、同じ症例でも症状の個人差が激しい。当事者から「配慮」の申し出があるケースが少なくないが、それを「前例がない」と受け付けないようでは、話が前に進まない。

「支援者」頼りではダメ

 発達障害のある人を多く採用する企業では、採用にあたり、「支援者」を決めておくようなことも行われているようだ。支援機関から派遣されるこうした「支援者」は、企業にとっては大いに助かる存在だが、途中で異動になる可能性もある。多忙で、しょっちゅう面倒を見切れない、ということもありうる。

 発達障害は、この10数年で認知度が高まった。すでに学校教育ではそれなりの「配慮」がされているようだが、「職場」ではまだ不十分。準備できていない、というところが多いのではないか。上述のように、これからは職場に発達障害の人がいるということが、そう珍しくない時代になる。「支援者」に頼り切るのではなく、人事、上司、同僚らが、発達障害の人と上手に一緒に仕事をしていくためにはどうすればいいか。本書は大いに参考になりそうだ。

 BOOKウォッチでは、同じく石井さんの共著『働く発達障害の人のキャリアアップに必要な50のこと』(弘文堂)を紹介済みだ。また、『職場のあの人、もしかして発達障害?と思ったら』(秀和システム)、『発達障害の子どもを理解する』(集英社新書)なども取り上げている。『いま、絶望している君たちへ』(日本経済新聞出版社)では著者の初瀬勇輔さんが中央官庁の障害者雇用数字のごまかし問題に言及、J-CASTニュースではこの問題について初瀬さんへのインタビューも掲載している。



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  • 書名 発達障害の人の雇用と合理的配慮がわかる本
  • 監修・編集・著者名石井京子、池嶋貫二、林哲也、村上由美 著
  • 出版社名弘文堂
  • 出版年月日2020年5月30日
  • 定価本体1900円+税
  • 判型・ページ数A5判・200ページ
  • ISBN9784335651885
 

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