読むべき本、見逃していない?

日本がつくった熱帯魚が世界で年間1000本の学術論文を生んでいる

奇跡の論文図鑑

 NHKで見た人も少なくないだろう。本書『奇跡の論文図鑑――ありえないネタを、クリエイティブに!』(NHK出版)は Eテレの異色の知的エンタメ番組「ろんぶ~ん」を書籍化したもの。テーマはラーメン、アイドル、猫の思い出、ギャンブル、心霊写真......。こんなものまでも学術論文になっているということを紹介する番組だ。もちろんNHKだから、ふざけたように見えるネタでも、きちんと「科学」の裏付けがされている。

国民食はラーメンだった

 冒頭に出てくる「ラーメン」のことを紹介しよう、ここでは二つの学術論文が紹介されている。一つは、日本人がいちばん好きな食べ物は何かということについての研究。いわゆる「国民食」についての調査だ。

 すべての日本人にアンケートすることはできない。世論調査などもあるが、もうちょっと多くの声を拾いたい。柳井啓司・電気通信大学大学院情報理工学研究科教授が目を付けたのはツイッターだ。毎日のように多くの日本人がつぶやいている。

 柳井教授らの研究グループはなんとツイート10億件を収集し、「ラーメン」「カレー」「オムライス」など100種類のキーワード検索で関係する173万件を拾い上げた。さらに画像認識も加えて、最終的に「ラーメン」の一位が確定したという。

 別の角度からラーメンに挑んだのは、近藤千尋・岡山理科大学工学部准教授。目を付けたのはどんぶりの残り汁だ。脂ぎった汁を全部飲み干す人もいれば、残す人もいる。残ったスープから燃料をつくることができないだろうかと考えた。

 あれこれ試行錯誤のすえに、「BDF」(バイオ・ディーゼル・フューエル、生物由来の油脂からつくられる燃料)の創出に成功する。一日に300人の客が来たら、約2.4リットルのBDFが得られることがわかった。日本人の「国民食」が持続可能な社会づくりに貢献する日が近いかもしれない。

世界の研究に貢献

 雑多なテーマが登場する中で、特に高度なのは、「食欲」に関連する川上浩一・国立遺伝学研究所教授の研究だ。観賞用の熱帯魚として知られる「ゼブラフィッシュ」を実験材料に使いながら、食欲の謎に迫っている。

 ゼブラフィッシュは体調5センチほど。水槽の中を泳ぎ回っているのをだれしも見たことがあるだろう。遺伝子の約70%が人間と同じといわれ、脊椎動物の生命現象を研究するためのモデル生物として使われている。脳が透明なので外部からも観察しやすい。

 川上さんが実験で使っているゼブラフィッシュは普通の種類とはちょっと違う。遺伝子組み換えで開発した新種だ。脳や神経細胞が働くと、発光するようになっている。ノーベル化学賞を受賞した下村脩さんが発見した緑色蛍光タンパク質を利用している。ゼブラフィッシュが食べ物を見て脳が反応すると、光るのですぐにわかる。

 「食欲」という本題の話もさることながら、この特殊なゼブラフィッシュを生み出すまでの川上さんの苦労話が興味深い。これまでに1700種類ものゼブラフィッシュを開発し、世界中の研究者が使っているという。川上さんのゼブラフィッシュを実験で使用した論文が、年間におよそ1000本も生み出されているそうだ。川上さんの研究室には約3000もの飼育水槽があり、ゼブラフィッシュが泳いでいるというから驚く。

学生時代から論文ウォッチャー

 Eテレの番組「ろんぶ~ん」の担当者であり、発案者でもある小宮大・NHK制作局ディレクターは理系の出身。学生時代からネットの論文検索サイトを頻繁にのぞいて遊んでいた。ちょっと変わった言葉を適当に入力し、検索で出てきた論文を読むのが楽しみだったという。とにかくどんな事象についても論文が著されている。世の中のありとあらゆることが研究対象にされている。論文には、人間の底知れない好奇心が集約されている。

 しかしながら、非常に残念なことに、エッジの利いた論文でも、ごくわずかな人の目にしか触れない。もったいない。ほとんど人目に触れずに消えていく可哀そうな論文への思いが、Eテレの番組として結実し、本書になったというわけだ。

 そう考えると本書は、風変わりな論文に注目し、それらのえりすぐりを集めて分析、紹介した小宮さんの論文ということになる。NHKに入って、ちゃんと飯のタネにし、視聴者を楽しませているのだから学生時代の探索は無駄になっていない。小宮さん、「奇跡の論文」づくり、ごくろうさまでした。これからも風変わりな論文=番組制作に励んでください。

 BOOKウォッチでは関連して、『維新と科学』(岩波新書)、『榎本武揚と明治維新』(岩波ジュニア新書)、『陸軍登戸研究所〈秘密戦〉の世界――風船爆弾・生物兵器・偽札を探る』(明治大学出版会)、『清々しき人々』(遊行社)、『宇宙と宇宙をつなぐ数学』(株式会社KADOKAWA)、『多様な花が生まれる瞬間』(慶應義塾大学出版会)など科学がらみの本も多数取り上げている。

   
  • 書名 奇跡の論文図鑑
  • サブタイトルありえないネタを、クリエイティブに!
  • 監修・編集・著者名NHK「ろんぶ~ん」制作班 編著
  • 出版社名NHK出版
  • 出版年月日2020年1月31日
  • 定価本体1300円+税
  • 判型・ページ数四六判・171ページ
  • ISBN9784140818060

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