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ハナ肇はブルーリボン賞主演男優賞2回の映画俳優だった!

ハナ肇を追いかけて

 「ハナ肇とクレージーキャッツ」は、昭和を代表するグループだった。メンバーの中では植木等が抜きんでて有名だ。また、植木のほか谷啓、犬塚弘には半生記が残っている。ところがリーダーのハナ肇についてまとまった本がなかった。本書『ハナ肇を追いかけて』(文芸社)は、これではいかんと、一ファンがその生涯をたどった本である。

ファンが定年後に書いた本

 著者の西松優さんは1950年愛知県生まれ。クレージーキャッツが出演した音楽バラエティ番組「シャボン玉ホリデー」は、1961年から1972年まで続いた名物番組で、中高時代は毎週見たという。今回調べてみて、30分の番組に数日のリハーサルを繰り返したことを知り、完成度が高かったことに納得したそうだ。

 ハナ肇は1993年に63歳で亡くなった。その際、映画俳優としてあまり触れられなかったことにハナ肇ファンとして腹が立ち、いつか本を書こうと思った。会社員を定年後、文献や資料を集め、こつこつと書いたのが本書である。



ハナ16歳、植木19歳の最初の出会い

 「第一章 クレージーキャッツ活躍までのハナの軌跡」では、生い立ちからバンドの結成、活躍にいたるまでを年代記風に書いている。かいつまんで紹介すると、1930年、現在の東京・池袋近くに生まれたハナはガキ大将で実業学校に進んだが、終戦後にタンゴバンドのバンドボーイになった。この頃、東洋大学生だった植木等と最初の出会いをする。

 ハナ16歳、植木19歳で、ハナが偉そうにふるまったが、すぐに仲良くなったという。この後、バンドが離合集散、彼らもバンドを移り歩き、「ハナ肇とキューバン・キャッツ」が結成されたのは1955年。その後、ハナ肇がリーダーとドラムス、植木等が歌とギター、谷啓がトロンボーン、安田伸がサックスとクラリネット、犬塚弘がベース、石橋エータローと桜井センリがピアノという構成でバンド名が「クレージーキャッツ」になったのは公式には1955年になっているが、1957年という小林信彦氏の説を紹介している。

インテリがそろったメンバー

 メンバーはいずれも実力のあるジャズメンで、7人中5人が大学に入っており(2人は中退)、インテリの集団だった。その中でハナは異質な存在だったが、笑いを織り込み大衆性を掲げるハナの路線をメンバーは支持した。彼らが成功し、長く続いた要因を西松さんはこう考えている。

 「彼らの多くがインテリの上、知的で教養豊かで文化的・音楽的な環境に育っており、金や名誉だけが人生と考える人がいなかった。そのためか、人を押しのけたり人を陥れたりせず、協力していい仕事をしようという人たちばかりだった」

「シャボン玉ホリデー」でスターに

 ちょうど、テレビが黎明期から普及期に入り、彼らに活躍の場が巡ってきた。前述の「シャボン玉ホリデー」は、毎週日曜日午後6時半から30分放送された。歌、コント、トーク、ギャグをうまく組み合わせた質の高いバラエティ番組だった。脚本は最初、前田武彦が担当、後に青島幸男が入った。音楽は主に宮川泰。植木の「お呼びじゃない」ギャグがヒットし、スターになった。彼らはジャズメンからコメディアンに変身、そして俳優となり映画にも出演するようになる。

映画俳優ハナ肇

 「第二章 映画俳優ハナ肇」こそ、著者が書きたかったことである。ブルーリボン賞主演男優賞を2回、また亡くなった後、1993年には日本アカデミー賞会長特別賞を受賞するなど顕彰され、120本超の映画に出演しているが、映画俳優として記憶している人は多くないだろう。

 クレージー人気にあやかった「クレージー映画」も30本あまりあるが、本書では山田洋次監督との出会いに注目している。1964年、松竹で初めての単独主演映画「馬鹿まるだし」にハナは出演する。植木等の東宝「ニッポン無責任時代」の大ヒットに対抗して企画された。

山田洋次監督へ心酔

 山田監督は新人監督だったが、ハナの個性を引き出し、見事に演技指導した。興行的にも成功し、山田監督が喜劇映画を撮る機会を与えた。西松さんは「男はつらいよ」に至る序章だった、と書いている。

 66年、ハナ・山田コンビの「運が良けりゃ」「なつかしい風来坊」でハナはブルーリボン賞主演男優賞を受賞する。

 コンビ解消後も山田監督に心酔し、応援した。渡辺プロの社長邸での新年パーティーでは、ハナが映写技師をつとめる映画鑑賞が呼び物だったという。かけられるのは「男はつらいよ」の旧作のどれか。ハナが自費で16ミリのプリントを松竹に焼いてもらい、映写機と一緒に持参するのだった。自分の出演作品でもない「男はつらいよ」を映写するところに、ハナの人柄が感じられるエピソードだ。

 クレージーキャッツ最後の映画は88年の「会社物語 MEMORIES OF YOU」(市川準監督)だ。ハナ主演でメンバー全員が出演した。二度目のブルーリボン賞主演男優賞を受賞した。

 最後に、ハナ肇とフランキー堺という同じようにジャズバンドのドラマ―から俳優になった同世代の二人を比較している。「庶民派でグループ第一の浪花節の親分」だったハナと「才能あるインテリで合理主義・個人主義者」だったフランキーを対比している。

 もともと植木と谷と桜井は「フランキー堺とシティ・スリッカーズ」のメンバーだった。フランキーが映画に進出したおかげで引き抜くことができたことを第一章で書いている。多くの才能がアメリカ進駐軍とともに日本に広まったジャズの周辺に蝟集していた時代だった。

 本書は単なる一代記に終わらず、昭和の時代の流れとともに記述しているので、テレビ、映画、芸能史としても興味深い。ハナの生誕90年にふさわしい本だ。

 BOOKウォッチでは、植木等の父を扱った『反戦僧侶・植木徹誠の不退不転』(風媒社)を紹介している。

  
  • 書名 ハナ肇を追いかけて
  • サブタイトル昭和のガキ大将がクレージーキャッツと映画に捧げた日々
  • 監修・編集・著者名西松優 著
  • 出版社名文芸社
  • 出版年月日2020年1月15日
  • 定価本体1300円+税
  • 判型・ページ数四六判・314ページ
  • ISBN9784286211619

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