読むべき本、見逃していない?

「スーダラ節」は親鸞の教えに通じるところがある

反戦僧侶・植木徹誠の不退不転

 植木等さんは、テレビドラマなどでお坊さん役が得意だったという。特に読経シーンは上手だった。お寺の生まれ育ちだから、いわば門前の小僧だった。

 本書『反戦僧侶・植木徹誠の不退不転』(風媒社)は、その植木さんの父親、植木徹誠さんについての一代記だ。「反戦僧侶」というと、何となく近寄りがたい雰囲気もあるが、地域の人に愛され、ちょっとダメなところもあって、この父あって植木等あり、との思いを新たにする。

労働運動からスタート

 徹誠さんは1895年、現在の三重県伊勢市で生まれた。廻船業者の二男。高等小学校に進み、のち東京に出て御木本真珠店の工場で働く。祖母が御木本の遠縁だった。そこで貴金属加工の仕事をしていた。

 労働者の権利意識が次第に高まっていた時代だった。周囲の影響を受けて、徹誠さんも次第に労働運動に接近し、治安維持法違反などで何度か検挙される。見合い結婚の相手が伊勢市内の浄土真宗大谷派のお寺の娘なので、妻の実家に戻ることになった。

 美声で知られ、東京時代は義太夫に凝っていた。芸名まで持っていた。結婚する時は、三味線の師匠だった女性が「あたしってものがありながら」と怒鳴り込んできたという。このあたり、さすが植木等さんのお父さんだなと、何となく合点がいく。

 妻の実家に帰っても仕事がない。お賽銭をちょろまかして小遣いに使ったりしていたようだが、妻に責められ、一念発起して、お坊さんの道を進む。小さな村のさびれたお寺に家族で転居したのが、新たな「運動」の契機になった。周辺に被差別地区があり、徹誠さんの娘も小学校で教師に差別的な扱いを受け、再び反骨の魂に火が付いた。

三重県特高課は徹誠さんの「反戦言動」をしっかり記録

 こうして徹誠さんは、この地域を中心とした部落差別問題に深くかかわるようになる。次第に戦争が忍び寄っていた。当時の徹誠さんのあちこちでの発言が今も残っている。なぜなら、徹誠さんは特高警察の「近畿特別要視察人名簿索引」に掲載され、そこで「共乙」と認定されていたからだ。「共」は共産主義者、「乙」は「甲乙丙」に分類された中の「乙」ランクというわけだ。

 ということもあって、三重県特高課は徹誠さんの「反戦言動」をしっかり記録している。全部で22項目ある。その一部はこんな感じだ。

 「日本は東洋平和のための戦争で、領土的な野心はないといっているが、帝国主義侵略であることは間違いない」
 「今の時代はファッショ政治で、われわれ民衆の要望というものは少しも容れられない」
「宗教家が戦争を弁護するのは矛盾している・・・元来宗教家は戦争に反対すべきものである」

 しかしながらこうした反戦言動は当局に睨まれ、戦争に向かって国民一丸となっていた総動員体制の中で孤立していく。地元では部落差別解消のために奔走したのに、その地元から「危険人物」として追い出されるのだ。

戦争反対を訴え続けたのは3人

 何度も検挙や逮捕を繰り返し、4年間も投獄。残された一家は食い詰める。植木等さんは地元の小学校を出た後、東京のお寺に預けられた。そこでお経を習い、勉強し、父親譲りの音楽の才を生かしてクレージーキャッツというバンドのメンバーになった。

 徹誠さんは戦後、宗教の世界から遠のき、再び貴金属加工の仕事に戻っていた。「ブルジョワ階級のおもちゃみたいなものを作っているのは俺の本意ではない」とこぼしていたそうだ。病床では等さんに、「俺は、あの世に行っても親鸞に合わせる顔がない。恥ずかしい」とも。1961年、「スーダラ節」が大ヒットしたときは、「わかっちゃいるけどやめられない」というのは、親鸞の教えに通じるところがあると、語っていたという。

 本書の著者の大東仁さんは1965年、愛知県生まれ。真宗大谷派圓光寺住職。真宗大谷派名古屋教区教化センター研究員。

 大東さんによると、真宗大谷派は戦前のすべての戦争に協力、浄土真宗の教えに従って戦争反対を訴え続けたのは3人しかおらず、徹誠さんはその中の一人だという。ほかの二人についても今回の出版元の風媒社からすでに評伝を刊行しているそうだ。

 お寺関係者で、戦争に反対した人物として本欄では、『特高に奪われた青春』の主人公、斎藤秀一(1908~40)も紹介している。

  • 書名 反戦僧侶・植木徹誠の不退不転
  • サブタイトル元来宗教家ハ戦争ニ反対スベキモノデアル
  • 監修・編集・著者名大東 仁 著
  • 出版社名風媒社
  • 出版年月日2018年8月 1日
  • 定価本体1400円+税
  • 判型・ページ数四六判・178ページ
  • ISBN9784833105774

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