コミックエッセイ「おかしな猫がご案内」シリーズは、室町時代、江戸時代につづき、本書『ニャンと明治時代はこうだった おかしな猫がご案内』(KKベストセラーズ)で3冊目。少しおちゃらけたタイトルだが、中身はかなり本格的だ。
著者のもぐらさんは、愛媛県松山市在住の漫画家。飼い猫のダイエットに悩んでいるという。他の著書に『うちのトコでは』(飛鳥新社)、『日本三大〇〇調査隊!』(竹書房)などがある。
主人公の猫、猫田は旅行会社に勤めるツアーコンダクターという設定。「あらゆる星の、あらゆる国の、あらゆる地域の、あらゆる時代へ」お連れするガイドだから、専門知識を毎日勉強している。
本書も絵柄はコミカルだが、問題意識は鋭い。冒頭、明治時代をこう押さえている。
「今まで常識だと思ってたことが否定される」
「今までダメだと言われてたことが奨励される」
「イヤでもどんどん変わっていく」
「しかも変わらなきゃ西洋とかに侵略されて植民地にされる危機」
「いろんな分野で西洋のものがもてはやされて」
「かと思ったら反動で日本のものに回帰して」
「もう何が何だかの大・混・乱!!」
確かに当時の日本は西洋を目標としていたが、それほど単純なものではなく、手探りで模索していた時代であり、「ストレス大国日本」は、ここから始まった、としている。
具体的に生活にまつわる7つのテーマで掘り下げている。
第1章 明治時代の化粧法 美しい? それともヘン?
第2章 明治時代の差別意識はどうだった!?
第3章 当時のお風呂事情って快適だったの?
第4章 明治時代の男女観をのぞき見してみよう!
第5章 意外? 庶民の家はどんな感じだった!?
第6章 明治時代は、刺青は一般的だった!?
第7章 当時と現在、「洋食」に違いはあった?
各章ともかなり専門的なことまで突っ込んで解説している。たとえば江戸時代まで既婚女性の身だしなみとされた「おはぐろ」。お歯黒水の作り方から禁止された由来、また明治26年になっても和歌山県の歯科医の調査では、既婚女性の患者288人中202人がおはぐろだった、というデータを紹介している。
庶民の価値観、美意識はそうたやすく変わらず、少しずつ変わっていった、と指摘する。
江戸と明治の銭湯を比べ、「混浴」がなくなった事情にもふれている。実際に混浴を見た外国人の多くは好意的だったが、「混浴する」とだけ聞いた大多数は、「淫蕩な国」「野蛮で劣った国」というイメージを持つかもしれないと政府は外国の目を恐れて禁止した。
同様に刺青も禁止された。
「外国人という『外の目』がない江戸時代! 庶民はかなり裸で暮らしていたのです!!」
「皆が無地の服ばっかり着ていたらファッションとして色や柄のある服ステキに見えるよねって感じで 肌に絵を描く刺青という文化がはやったのです!!」
各章ごとのコラムを担当した飯山恵美さんは、「日本人の刺青は着物である」とするドイツ人医師ベルツの論文を紹介している。その根拠は4つもあった!
洋食事情も相当変だった。当時のこんなメニューが出てくる。マグロのぶつ切り牛乳浸け、牛肉のお吸いもの、牛肉の酢みそあえ、豚肉の刺身、ドジョウのトマトシチュー、カレーの味噌汁......。試行錯誤を重ねた料理人、西洋料理のマナーに四苦八苦した庶民。どちらも苦労したおかげで今日の我々がいる。
巻末の参考文献リストを見て感心した。『近代アジアの自画像と他者』(貴志俊彦、京都大学学術出版会)、『日本の刺青と英国王室』(小山騰、藤原書店)、『刺青墨譜』(斎藤卓志、春風社)など専門書のほか、大学の紀要論文もいくつか入っている。
楽しく漫画を見ているうちに、かなり明治に詳しくなること請け合いだ。
BOOKウォッチでは、関連で『近代建築そもそも講義』(新潮新書)、『ミネルヴァ日本評伝選 黒岩涙香』(ミネルヴァ書房)などを紹介済みだ。
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