本書『むかしむかしあるところに、死体がありました。』(双葉社)は、なんとも人を食ったタイトルだが、「本屋大賞2020」の候補作品だ。「むかしむかし......」とあるように、昔ばなしがまさかのミステリに、という短編集だ。
ずいぶん前に『本当は恐ろしいグリム童話』(桐生操著)という本が話題になったが、本書は「一寸法師」や「桃太郎」など、日本の昔ばなし5編をミステリに改変したものだ。タイトルは以下の通り。
「一寸法師の不在証明」 「花咲か死者伝言」 「つるの倒叙がえし」 「密室龍宮城」 「絶海の鬼ヶ島」
よくもまあ、こんなことを思いついたものだ、と感心した。著者の青柳碧人(あおやぎ あいと)さんは、1980年千葉県生まれ。2009年『浜村渚の計算ノート』で第3回「講談社Birth」小説部門を受賞してデビュー。数学ミステリの同書はシリーズ化されロングセラーになっている。
評者がもっとも面白いと思ったのは冒頭の「一寸法師の不在証明」だ。藤の香りに誘われて出てきた鬼が、右大臣の娘、春姫を手に取り食べようとしたときに、5日前から家来になった「一寸法師」と名乗る男が登場し、鬼に立ち向かう。
身の丈が一寸ほどしかない一寸法師は、鬼にひと飲みにされるが、腹の中で針の刀を突き立て、降参した鬼から打ち出の小槌を手に入れる。それを使い、背が伸びて立派な武士になり、姫と婚礼の儀を迎える......と、昔ばなし通りだが、本書はここからがスタートだ。
検非違使の手先と名乗る男が屋敷に現れ、「堀川少将」という立派な名前をもらった一寸法師に殺人の疑惑があると家来に告げる。しかし、その時刻に「一寸法師は鬼の腹の中にいた」とアリバイがあるという。生まれ故郷の近江の村では名の知れた悪童だったという一寸法師は本当に犯行にかかわっていないのか? 打ち出の小槌が推理のカギとなる。
本格推理も昔ばなしに登場する不思議な力の前に無力だが、両者が合体すると異様なストーリーが展開することになる。
「つるの倒叙がえし」では、鶴から人間の女に姿を変えた「つう」は、一夜の恩義と機を織り始めると、高く売れる反物になるため、男にずっと搾取される。男は奥の間を開けてはならぬ、と厳しく申し付けるが......。
浦島太郎の物語も桃太郎の物語もまったく姿を変えた形相で現れる。どれから読んでもいいだろう。表紙はかわいいが、子供には見せられない悪意と毒に満ちた「寓話」集だ。
BOOKウォッチでは、本屋大賞候補作のうち、砥上裕將(とがみ ひろまさ)さんの『線は、僕を描く』(講談社)、川上未映子さんの『夏物語』(文藝春秋)、直木賞を受賞した川越宗一さんの『熱源』(文藝春秋)、横山秀夫さんの『ノースライト』(新潮社)、小川糸さんの『ライオンのおやつ』(ポプラ社)などを紹介済みだ。
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