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サンタクロースが空から降ってきた物語

ALL for ALL

 江戸後期。雪が降り積もるクリスマスイブの晩、出羽の国(現在の秋田県)にサンタクロースが空から落ちてきた。本書『ALL for ALL』(幻冬舎メディアコンサルティング 発行、幻冬舎 発売)は、そんな書き出しで始まる奇想のファンタジー小説である。

江戸時代にサンタクロースと夫婦になった娘

 この小説には、約200年前の秋田の山村と現代のロンドン、二つの舞台、二つの物語が登場する。

 まずは「カヨの物語」。八郎潟近くの山村にどすんと大きな音を響かせ、奇妙な格好の若い男が雪の中に落下してきた。地球周回中のサンタクロース、レオンだ。金蔵とサト、娘のカヨは、赤い装束を着た若い異相の男を「山の神」だと思い、介抱する。

 男の冷え切った体を温めるため、カヨは新婚の初夜にまとうはずの「一糸の衣」を裸にまとい、男に抱きつく。やがて体調を回復したレオンは、カヨに求愛。戻ってきたトナカイを従え、二人は星空に旅立つ。クリスマスの夜、世界の各地でサンタクロースの来訪を待つ人々に会い、カヨは使命の大きさに気づく。

 一日後、二人はふたたび秋田に戻ってくる。レオンは驚くべき告白をする。

 「私は......死なないのです。いや、死ねないのです」
 「どんなにカヨさんを慈しんでも、私は見送ることしかできない。いつまで経っても、百年、二百年、千年経っても、あなたのもとに逝けないのです」

 結婚をカヨと両親に翻意させようとするレオン。金蔵は「夫婦は二度」と言い、今生の別れが来たとしても、またカヨの魂を持って生まれてきた女を見つけ出して、また夫婦になればいい、と諭す。そして、レオンはカヨと夫婦になる。

ラグビーワールドカップの「勝利の泣き女神」

 次は「佳奈の物語」。ラグビーワールドカップ2015年イングランド大会で沸くロンドン。社命で日本の予選4試合をすべて見るように派遣された松山佳奈は、日本対南アフリカ戦を観戦する。世紀の番狂わせに大泣きする佳奈の姿はテレビに映り、「勝利の泣き女神」として、一日にしてヒロインになってしまう。

 地元で知り合った学生のケイトの家に泊めてもらった佳奈は、家に伝わる不思議な絵を見せられる。サンタクロースのお嫁さんが200年前に書いたものだという。二人でクリスマスイブに世界を旅した様子を描いた巻物だった。カヨは生前、この家に数年に一度、何度か来たらしい。

 ケイトの家にあるのは1巻だけで、残りの19巻は、秋田の神社にあるという。宇宙旅行を夢見る佳奈は、次第にこのサンタクロースの話に引き込まれていく。

「結婚は人生の一部、冒険の一部でしかないのよ。だったら、旦那さんはサンタクロ~スよ」

 さらに二つの物語があり、カヨと佳奈、サンタクロースをつなぐ不思議な因縁が明らかになる。

 最初はたわいないサンタクロースが出てくるファンタジーだと思っていたが、愛する妻を何度も看取るしかない、不死身のサンタクロースの悲哀がしみじみと伝わり、存外深い話だと思った。

 サンタクロースの長年の悩みを解決する名案を佳奈は、最後に提案して物語は終わる。

 著者の伊藤基さんは1957年秋田県生まれ。早稲田大学を卒業後、鈴木自動車工業(現スズキ)、三井物産エアロスペースを経て、現在は航空機用通信、航法装置の開発製造などを行う会社の役員。本書は『月光の奪還』に次ぐ2作目。

  
  • 書名 ALL for ALL
  • サブタイトル ――時空を超えて――
  • 監修・編集・著者名伊藤基 著
  • 出版社名幻冬舎メディアコンサルティング 発行、幻冬舎 発売
  • 出版年月日2019年9月 2日
  • 定価本体800円+税
  • 判型・ページ数文庫判・329ページ
  • ISBN9784344924000
 

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