竹下文子さんの『風町通信』を読み終え、夢見心地が続いている。初見寧さんによる温かみのある表紙に惹かれ、また172ページという軽めのボリュームということもあり気軽に手に取ったが、なんとも不思議な読書体験だった。
著者の竹下文子さんは、1957年福岡県生まれ。『星とトランペット』で野間児童文芸推奨作品賞、「黒ねこサンゴロウ」シリーズで路傍の石幼少年文学賞を受賞。他の作品に『ねえだっこして』、『ひらけ! なんきんまめ』(産経児童出版文化賞フジテレビ賞受賞)、『青い羊の丘』、『旅するウサギ』など、絵本から短編集まで多数。
本作は『風町通信』として1986年に偕成社より刊行され、一部加筆・修正し、3編を新たに加えて2017年にポプラ社より文庫化された。CDジャケット等で活躍する初見寧さんの装画・挿絵が優しい雰囲気を醸し出している。本書は「風町から」と「風町まで」の2部構成で、31の短編が収録されている。読み始めて間もなく、一気に現実から引きはなされ、竹下さんのファンタジーの世界に魅了された。
本書の世界観を味わっていただくために、本文を引用したい。
「試しにスケッチブックを広げて、そのまま待っていると、空は静かに静かに降りてきた。私は、白い紙に空の色がうつるまで、じっと動かないでいた。それから注意深くスケッチブックを閉じて、空の色をぴったりはさみこんだ。大きな青い花びらを押し花にするような具合に」(「青い空」)
「その町へ行くのに特別な切符や旅券はいらない。その町へは電車に乗っても行けるし、歩いても行ける。だけどその町は、いったいどこにあるのだろう。......それは素敵なところ、なつかしいところ、新しいことに出会えるところ、限りなくやすらかなところ」(「風町まで」)
「風町」の住人は、私たちの常識を超えた思考、発想で生きている。そのため、読んでいて何度も「?」が浮かぶ。1編が5ページほどの短編で、その前後も読みたくなった。
文章を読んで、ここまで映像がクリアに浮かび上がってくることはあまり経験がない。物語から1シーンを切り取った絵葉書を31枚眺めているようだった。ちょっとしたすき間時間に本書を開いて1編読むと、途端に別世界に飛んでいける。
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