本書『私の裸』(新潮文庫)は、R-18文学賞読者賞を含む連作短編集『主婦病』の著者である森美樹さんの最新刊。刺激的なタイトルからはあらゆる想像が膨らむが、本書の中心人物は意外な設定だった。
本書は、「朔也」「鈴美」「冬美恵」「理都子」「天音」の5話から成る。「成長ホルモン分泌不全性低身長症」により6歳児の身体を持ち、俳優業の傍ら素人の裸を撮影する朔也。過去の性的虐待のトラウマに苦しむ鈴美。男性経験のなさにコンプレックスを感じる冬美恵。朔也が女の裸を撮影することに憤る朔也の妻・理都子。ライターとしても妻としても自己不全感を抱く天音。本書は、朔也の描写で始まる。
「その人を一目見て、箱庭のようだと思った。精巧で繊細で、けれどリアルではない。息遣いは感じられるから、勿論リアルなのだけれど。話をしてみると、内面のエネルギーや、特殊な容姿ゆえに味わったであろう感情がにじみ出て、その人自身を膨張させる。不思議と、大きく見えてくる」
朔也は小学校高学年の時に病気と診断され、母親は治療法を必死に模索したが、朔也は「このままでいい。小さいままだと大人になれないの? 大人なのにちっちゃい奴もいるのに」と言った。病を「一種ファンタジーに変換」し、「朔也は朔也のままで生き」、「比類ない朔也として存在」している。
「俺、歩くファンタジーなんだよね」「だから、さらけ出せるんだと思う。全部」と、朔也は自身と朔也に寄ってくる女たちを分析する。特徴的な容姿をはじめ、個性の強い朔也に女たちは惹かれ、心を開き、裸になる。
正直なところ、登場人物の設定からして共感できる要素はあまりなかったが、朔也に会った時の天音の気持ちはわかる。
「自分が随分と凝り固まっているのではないかと感じる。本来はもっとやわくてだらしなくて、自由なのではないか。腐りかけの果物のような、嫌悪すれすれの甘さを、ひた隠しにしているのではないか」
ある1つの枠の中で凝り固まっている、過去のしがらみから抜け出せない......そんな「私」を解放してくれる朔也に女たちは身も心も委ねていく。朔也の存在はまさにファンタジーで、現実的ではない。朔也のような人物との出会いを期待するわけではないが、それまで気づかずにいた「私」の皮を1枚ずつ剥いでいくことは、なにかのきっかけでできるのだと思った。
4人の女たちと同じく、おそらく誰しも皮や殻があって、脱皮することができたら新たな「私」になれるかもしれない。本書に漂う雰囲気は明るいとは言えないが、そんな脱皮願望が湧いてきて「未知の私」に会いたくなる。
著者の森美樹さんは、1970年埼玉県生まれ。95年に少女小説家としてデビュー。5年間の休筆期間を経て、2013年「朝凪」(「まばたきがスイッチ」と改題)でR-18文学賞読者賞を受賞した。
本書は、2016年に新潮社より単行本として刊行された『幸福なハダカ』を改題し、文庫化したもの。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?