「人前で話すのが苦手、緊張して上がってしまう。自然に人づきあいができず、社交をつい避けてしまう」――そんな人は少なくないはずだ。
本書『社交不安障害』(幻冬舎新書)は、こうした症状をどうすれば克服できるか、処方箋を説いた一冊だ。
ネットで検索すると、よく似たタイトルの本が山のように出てくる。それだけ、悩んでいる人が多いということに他ならない。その中で本書の特徴は、副題にあるように「理解と改善のためのプログラム」を示していることだ。数ページごとに、著者からの「問い」があって、読者は「答え」を強いられる。だから読み進めるのに時間がかかる。
「あなたの場合、一番困っている症状は、どういうものですか」 「あなたの場合、遺伝的な要因や発達的要因は、どれくらい関係していそうですか」 「あなたの場合、どういう発症の経過をたどりましたか。元来の気質的な要因と、環境的なストレス要因が、どのくらい関係しましたか」
こうした質問が、ページをめくるたびに次々と出てくる。それに対し、○×式ではなく、筆記式で書きとめなければいけない。
さらに少し進むと、「社会不安障害 診断基準」というリストが登場する。そこにはAからJまで10項目の「要件」が記されている。医師が患者を「社会不安障害」と診断するための要件だ。「他者の注目を浴びる場面に対する著しい不安や恐怖」があるか、などの質問が列挙されている。 さらにページをめくると、他の疾患との「識別診断」もある。社会不安障害と似たような症状が出る疾患が、他にもあるので、それを識別するテストだ。
著者の岡田尊司さんは1960年生まれ。京都大学の医学部を卒業した精神科医だ。研究者生活やメンタルクリニックの院長を務めるかたわら、『アスペルガー症候群』(幻冬舎新書)、『境界性パーソナリティ障害』(幻冬舎新書)、『統合失調症―その新たなる真実』(PHP新書)、『夫婦という病―夫を愛せない妻たち』(河出書房新社)など現代社会で目立つ様々な病理的現象について多数の著書を著している。
本書の特徴は、著者自身の臨床医経験をベースにして、近年話題になる他の疾患と見分けながら、社会不安障害について精査し、改善の手助けをしようというところにある。
「社会不安障害」とは、「もっとも頻度の高い精神的な困りごとの一つ」だという。海外では有病率が一割を上回っているというデータもある。シャイな人が多い日本では、もっと多いかもしれないという。
社会不安障害による自信の萎縮が生活全般や人生全般に及ぶと、「回避性パーソナリティ障害」の状態になり、消極的な生き方しかできないと思い込むようになる。心当たりがある人が少なくないのではないか。
社会不安障害は生まれ持った性格なのか。著者は「実際には、ある出来事をきっかけに社会不安障害になり、それから生き方まで消極的になったということが多い」と指摘する。「ところが、一旦そうなってしまうと、まるで生まれつきの性格のように勘違いしてしまう・・・だが、それは後から身に着けてしまった悪い習慣やクセにすぎず、今から変えていくこともできるのだ」と力を込める。
世のなかには、トランプ大統領をはじめとして自信満々のパフォーマンスの人が少なくない。日産のゴーン前会長なども、かつてはそんな感じだった。一方で、文学やテレビドラマの世界などでは、むしろ傷つきやすい、社会適応不安型の人が主人公としては一般的だ。世界で読まれている村上春樹さんの登場人物など、たいがい精神的に問題を抱えている。
本書で著者は、一つの理論や方法に偏らない、各種アプローチのメリットを生かした改善プログラムを提示している。
著者自身もかつては赤面恐怖や視線恐怖、対人恐怖がひどく、大学生のころはアルコールなしでは言いたいことが言えない状態だったそうだ。せっかく入った東大を中退して、京大を受け直し、医学に方向転換するという切羽詰まった経験をしている。それだけに、本書は挫折知らずのエリート医師による説教ではなく、自身の克服体験に根差しているので説得力がある。
関連で本欄では『ドナルド・トランプの危険な兆候』(岩波書店)、『働く発達障害の人のキャリアアップに必要な50のこと』(弘文堂)なども紹介している。
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